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2011-07-19 16:20

(連載)大震災後の復旧・復興をめぐる議論に望む(1)

橋本 宏  元駐シンガポール大使
 東日本大震災の復旧・復興政策を巡って官民双方の場で様々な議論や提言が行われている。日本国際フォーラムにおいてもその政策委員会で島田晴雄氏をタスクフォース主査にして「ポスト3・11の日本と世界」というテーマでこの議論が行われている。そのような中で、このほど島田晴雄氏の近著『岐路』(NTT出版)を読む機会を得た。それを参考に、ここで私なりに一度頭の中を整理してみたい。

 わが国にとっての喫緊の課題は「安心・安全社会の再構築」という言葉で括り得る諸課題である。島田氏を含め官民の多くの関係者からいろいろな提言が行われており、最早これ以上新たな考え方が出て来る余地は限られているとさえ言えよう。今必要なことは、こうした諸提案、諸議論を収斂させ、適切な優先順位の下に、より整合性の取れた形で所用の政策を実施していくことであろう。
 
 特に、成長戦略とエネルギー戦略の長期的な整合性を図った上で、復旧政策を迅速に遂行していくことが強く求められていると思う。しかし、現実には、政治不信が高まる中で、大震災から4カ月以上たった時点でも、復旧政策は順調に進められておらず、被災地の方々のストレスは高まるばかりである。人心は倦んでいる。一国民としては、より信頼し得る内閣が誕生し、より円滑に復旧政策が実施されるという政治状況が早く生まれることを、ただただ望むばかりである。

 さしあたり我々に重くのしかかっているのは、(1)ポスト3.11が復旧から復興の段階に進むに従い、労働人口の減少、デフレ、財政赤字等で既に弱ってきていた日本経済が、更に大きなボデイ―ブロー受けたこと、及び(2)サプライチェーンに受けた被害により国境を越えた相互依存関係の広がりと深さが再認識される中で、安定した電力供給に問題が生じ、円高問題もあって、部品産業を含め、わが国の有数の企業が生産拠点の海外移転を検討せざるを得ない状況が現実味を持って語られ始めていることの二つである。わが国マクロ経済の抱えるこうした問題の克服に当たっては、上述の成長戦略とエネルギー戦略の整合性確保が最も重要な位置を占めることになる。有識者も広く議論しているように、今後の復興段階においては、災い転じて福となすような、日本再生構想の策定と実施が必要である。このためにはわが国に強力な政府の実現と幅広い国民の支持が必要となるが、現在の政治状況はこれを可能としていない。当面は、有識者たちによって再生構想の具体的な肉付けについて広く議論が展開されていくことを期待したい。(つづく)
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