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2011-08-09 07:21

自民党は人質法案を解放すべき時だ

杉浦 正章  政治評論家
 このままなら、自民党は赤字国債発行のための特例公債法案をめぐって孤立する流れとなる。米国債格下げで世界経済の先行きに暗雲が垂れ込める中で、自民党だけが能天気にも同法案を人質にとって、日本経済の展望が開けないまま放置してよいのか、という事態に立ち至っているのだ。同党の狙いの背景には、不人気な首相・菅直人のもとで解散・総選挙を目指したい党利党略があるが、責任政党としてのあるべき姿は“敵失”でなく、堂々と横綱相撲をとるべき時だ。早々に人質法案を解放して、菅退陣への展望を開け、と言いたい。確かに、菅が退陣条件の特例公債法案と再生可能可能エネルギー買い取り法案を成立させれば、本当に退陣するかどうかは、予断が難しい。この国の政治は、憲政史上もっとも卑劣な首相に遭遇しており、経験則で判断出来ない状態だからだ。8月8日も、国連事務総長のパン・ギムンに国連会合への出席を明言しなかったが、菅は法案成立の微妙な情勢を意識しているだけで、法案が通ってしまえば「出る」と言い出しかねないのである。

 しかし、筆者は、それでも残る2法案を通して、政治の有り様(よう)を試してみるべきではないかと思う。ここまで来ると、ことは「正義か、邪悪か」と言う根源的政治判断が問われる段階に達しており、退陣しなければ与野党の「正義」が決起して、内閣不信任案が確実に成立する情勢となり得るのだ。こうした情勢の中で、公明党は子供手当廃止の合意を受けて、赤字公債法案に賛成する方向に事実上かじを切った。ところが、自民党は成立をやむなしとする副総裁・大島理森、幹事長・石原伸晃に対して国対委員長・逢沢一郎や派閥領袖、参院自民党幹部が強硬論であり、割れている。リーダーシップを発揮すべき総裁・谷垣禎一は、相変わらずの優柔不断さだ。自民党内で強硬論があるのは、一にかかって政権奪還のチャンスと見るからであろう。同党が最近極秘裏に実施した300選挙区の情勢調査では、今選挙をやれば「自公圧勝」という結果が出たという。朝日新聞の調査でも、比例区での投票先は民主党15%に対して、自民党28%だ。浮動票が多いが、民主党には行かない流れであろう。自民単独過半数も夢ではない。

 強硬論の参院自民党政審会長・山本一太は「本来は、解散・総選挙をやるべきだ、と私は思っている。選挙をやらない限り、政治をリセットすることが出来ない」と述べて、あくまで菅を解散・総選挙に追い込みたい構えだ。たしかに政党の戦略としては、解散・総選挙を狙うのはもっともである。しかし、大状況下のいまは、解散・総選挙が出来る状況にはない。「あえぐ被災地を放置できるのか」という問題に加えて、米国債格下げで世界経済の先行きが予断できない情勢となった。日本だけが2か月の政治空白を作っていられるときではないのだ。ここは、自民党が、絶好のチャンスでも敢えて見送るべきであろう。誰が見ても卑劣な首相を追い込んで、選挙に勝っても、空しいだけだ。敵失で勝った民主党政権の体たらくを見れば分かる。因果応報なのだ。自民党が横綱相撲をとるなら、堂々と民主党の新首相の下での早期解散を目指すべきだろう。

 重要なことは、2代続いた「失政首相」が民主党政権の構造的欠陥を図らずも露呈しており、新首相になっても民主党政権の基本は変わらないだろう。それは根付いたパフォーマンス政治であり、政治主導という官僚無視であり、経験不足に根ざした首相自身の当事者能力欠如であるのだ。従って、政権発足当初は内閣支持率が一時的に上昇するだろうが、すぐに落ち始める。政党支持率も大きな動きを見せないだろう。つまり、自民党にとってチャンスはまだあるのだ。ここは桶狭間の急襲を狙うより、堂々と関ヶ原の合戦を目指すべきだろう。それには災害地対策の3次補正を早期に成立を図り、被災地に希望と夢を与えるのが、まず政党としての王道であろう。その上で臨時国会末か、通常国会での解散・総選挙に持ち込むのだ。マニフェスト問題は、一丁目一番地である子供手当を廃止に持ち込んだだけでもうよい。マニフェストはもう破綻したのだ。これ以上こだわり続けても、世論の共感は得られない。矛先はマニフェスト至上主義政党から転じて党利党略至上主義の自らに向かうと心得るべきだ。
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