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2011-08-23 09:48

唖然とさせられる小沢元環境相の「海外からの電力直接輸入」発言

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 昨今の我が国の一つの潮流となっている「脱原発」にせよ、「原発依存の漸減」にせよ、往々にしてエネルギー安全保障の観点が希薄である点が、最大のネックである。エネルギー資源こそは、国際的パワーゲームを通じて獲得される最大の戦略物資であり、その安定的確保のために各国は死力を尽くしている。エネルギー資源産出国の中には、それを梃子に資源ナショナリズムに走り、供給先に多大な政治的影響力を及ぼそうとする国もある。ロシアはその典型例である。また、中国の海外進出の目的も、一つにはエネルギー資源の確保がある。

 しかるに、小沢鋭仁元環境相は、8月22日に、時事通信社とのインタビューで、原発からの段階的撤退目指す際の代替エネルギーに関し「海外から電力の直接輸入を行う」と述べたと報じられている。何と安直な発想であろうか。小沢氏の認識では、ドイツは電力を輸入しているため「脱原発」への回帰が可能だったのであり、我が国も同様にして原発依存を減らすべきだということらしい。確かにドイツはフランスから電力を購入している。しかし、日本には近隣に電力の供給元として信頼がおけるような国がどこにあるというのか。小沢氏は、輸入先として、韓国や中国を挙げたという。そして「国と国の間に海底ケーブルを1本引けば、全て解決する」と言ったとのことである。これには唖然とした。

 昨年秋の尖閣沖衝突事件で、中国側が日本へのレアアースの事実上の禁輸に踏み切ったことは記憶に新しい。小沢氏は「海底ケーブルを1本引けばよい」というが、何らかの摩擦や衝突が両国間に起こった時には、中国側にしてみれば「海底ケーブルを1本止めればよい」ということになる。韓国は我が国の重要な友好国の一つではあるが、竹島問題などに火がついたならば、不測の事態が起こりかねない。したがって、韓国も、ドイツにとってのフランスのような存在には到底なりえない。他には、ロシアも考えられるが、近隣国や欧州への天然ガスを用いた政治力の行使を見れば、何をかいわんやである。

 小沢鋭仁氏は、民主党代表選に出馬意欲を見せている。すなわち、総理を目指している人物である。それが、このような惨憺たる認識であり、「電力の直接輸入を代表選の目玉公約と位置づけたい」というのだから、背筋が寒くなる。小沢氏は極端な例であるかもしれないが、エネルギー政策の議論においては、エネルギー安全保障という根本から外れるようなものは、すべて国益を危うくするものと断じてよいであろう。「原発依存からの脱却」は、あたかも既定路線であるかのごとく議論が進んでいるが、本当にそれでよいのか。あまりにも心情論に立脚し過ぎではないのか。我が国のエネルギー政策に関する議論で、今最も必要なのは、心情論を排し、エネルギー資源をめぐる国際的パワーゲームという本質に立ち戻ることなのかもしれない。
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