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2011-08-27 13:31

(連載)福島第一原発事故問題の本質は、津波の高さか?(2)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 今回の事故の原因は、要するに原発の電源が全て喪失したことにある。そういう事態は、何も津波に限った話ではない。例えば、テロリストによる原発を標的にしたテロは、電源を全て喪失させるであろう。実際、米国では、テロリストに乗っ取られた航空機が原子炉に突入し、原発が全電源を喪失した事態を想定したシミュレーションが、定期的に実施されている。

 元米国務省日本部長のケビン・メア氏は、著書『決断出来ない日本』(文春新書)の中で、「東電は大津波による福島第一原発の全電源喪失を『想定外』とうそぶきましたが、米国の原発が電源喪失、中央制御室の機能喪失といった非常事態を想定した訓練を行っていることを知っていれば、とても『想定外』とは言えなかったはずです。日本では、平安時代の貞観津波の例を引いて、東電が大津波を想定できなかったのはおかしいという議論もなされていますが、米国の事例を見ていれば、何も貞観津波を持ち出すまでもないでしょう」と述べている。

 全くその通りだと思う。千年に一度の大津波を想定できたかどうかに基づいて、東電や保安院の対応のお粗末さを論ずるのは、かえって原発に関する危機管理の本質から目をそらせることに繋がる。

 メア氏は、前掲書において、「米国は同時多発テロ事件以降、原発の安全性向上のためにどう警備を強化しているか、日本政府、特に経産省や文部科学省に説明していたのだから、どういう事態によって電源喪失が起きるのか、国も東電も普段から研究しておくべきでした」と、指摘している。他国の取り組みにも、敏感にアンテナを張って目を向けることこそ、危機管理に求められているのである。設置が予定されている「原子力安全庁」では、是非ともそういう面での充実を望みたい。津波の高さを想定できたかどうかに汲々とする議論は不毛である、としか言いようがない。(おわり)
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