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2011-10-21 07:02

平野発言で「言葉狩り」を避けたマスコミ主流

杉浦 正章  政治評論家
 「マスコミと言っても、いささか広うござんす」と反論したいのが、10月20日の民主党幹事長・輿石東のマスコミ批判。震災復興担当相 ・平野達男の「馬鹿」発言を批判するマスコミを、代議士会で「マスコミが半分くらい世の中を悪くしている」と決めつけたのだ。しかし、同じマスコミでも、発言を歯牙にもかけなかった全国紙と、産経や一部スポーツ紙、民放のように鬼の首を取らんばかりに報道したケースとでは、月とすっぽんほど違う。小沢一郎擁護の輿石自身の姿勢や自らが指導する日教組を「日本を9割くらい悪くしている」と批判する方が説得力があることが分かっていない。筆者は、平野の「私の高校の同級生みたいに逃げなかった馬鹿なやつもいる」という発言を聞いて、「また言葉狩りが始まるのか。その価値はない」と即座に判断、無視することにした。「馬鹿」発言にも親しみを込めて言うケースと、批判して言うケースがあり、そこに日本語の複雑多様な含蓄があると思ったからだ。マスコミは、自粛とセンセーショナリズムの二つにくっきりと分かれ、政治家や評論家の反応も割れた。全国紙のうち朝日は、4面ベタ扱い。読売も、4面2段でさらりと報じた。特筆すべきは、朝日が20日付の天声人語で、読売が編集手帳で、それぞれ平野発言を擁護している点だ。天声人語は「扱いが難しい言葉だけに、発言に逸脱感はあるにせよ、前後の文脈はまっとうだ」ととらえ、編集手帳も「言葉は文脈のなかで生きている。一語を抜き出して『けしからん』と非難しても意味がない」とした。いずれも発言全体をとらえた判断がある。

 一方で、真っ正面から批判の大展開をしたのが産経。19日は1面3段で「平野復興相が失言」、5面で「与野党から批判の声、人間として問題」と大々的に報道。極めつけは社会面で「母は馬鹿だから死んだのか」と被災者に言わせて報道するという、あってはならない感情的な側面まで見せた。20日付社説でも追い打ちをかけ、「考えられない失言であり、緊張感を欠き、内閣のたがが緩んでいる」と主張した。このようにマスコミの判断が分かれるのは、間違いなく背景に編集局首脳の判断がある。「やれ」という判断と「必要ない」という判断だ。産経の場合は各部にまたがる全面展開だから、トップクラスの判断があったに違いない。しかし、明らかな誤判断であった。その後、事態は全然辞任論などへと発展しないことからも分かる。この判断力の有無は、編集者に不可欠な平衡感覚を示せるかどうかの重要な場面であった。

 一方、自民党副総裁・大島理森が「大臣として許されざる言葉だ。人を傷つけるような言葉を平気で言う、この政権に復興はできない」と述べ、政治評論家の森田実が「責任をとらせないといけない。野田首相の任命責任も問われる。20日からの国会で野党は徹底的に追及すべきだ」と述べているが、いずれも方向性を疑う発言だ。あさってを向いているのだ。マスコミによる閣僚の失言追及には昔から、憲法9条がらみや、中国、韓国など外交がらみ、黒人への差別発言など人種差別がらみなどがあるが、このところクローズアップしているのが、大震災、原発事故がらみだ。しかし、復興担当相・松本龍の知事に対する暴言、経産相鉢呂吉雄の「放射能付けちゃうぞ」発言の場合は、その発言の異常性から言って、辞任は当然だった。

 しかし、平野発言はいくらのことにもあげつらうのはおかしい。まず国会答弁を見ていれば、平野がまじめで、真摯な人柄であることが判る。だいたい「馬鹿野郎」などという発言は、芸能人の葬式の度に繰り返される流行語のようになっている。「親方、大変だ」と言って、持ってくる駆け出し記者の情報を、そのままニュアンスも付けずに報道する方がよほど「馬鹿の一つ覚え」であろう。かつて公明党・創価学会の言論出版妨害や、部落解放同盟の「言葉狩り」に悩まされたマスコミが、自ら言葉狩りに乗り出すことは、よくよく気をつけねばなるまい。とりわけ自らの論調に反する発言は、「これが見えぬか」とばかりに「印籠」を出して従わせる傾向が目立つケースには、問題がある。もっとも権力者の側からの批判も願い下げだ。輿石の就任早々からの情報統制的な発言や、マスコミ批判、そしてこれに拍手する民主党代議士たちの様子を見れば、嫌な雰囲気が醸成されつつあると疑いたくなる。「国を悪くした」というなら、日教組ほど悪くしたものは無い。加えて小沢を「これからも滅多に出てこない卓越した政治家。小沢さん抜きの民主党はなく、小沢さん抜きの民主党の将来はない」と“礼拝”する政治が、日本を悪くしていないかということだ。一部マスコミもマスコミだが、輿石にだけには言われたくない。フーテンの寅さんではないが「それを言っちゃあ、おしめえよ」だ。
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