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2011-10-31 18:15

高まるインドの存在感

川上 高司  拓殖大学教授
 9月20日、アフガニスタン平和協議会委員長のラバニ・元アフガン大統領が暗殺された。アフガニスタン政府は実行犯はパキスタン人であるとパキスタンを非難している。アフガニスタンへ干渉するパキスタンへの不満は政府レベルにとどまらず今や国民の間でも不穏なほど高まっている。このアフガン平和協議会はタリバンとの和平交渉のために2010年10月に設立されたもので、ラバニ委員長暗殺によってタリバンとの和平は事実上凍結状態となり、パキスタンとアフガニスタンの関係も緊張が高まっている。

 その緊張を一層高めたのが、インドとの協定だろう。この協定は、インド側がアフガニスタンの治安部隊の養成に協力するという内容である。ダムを建設するなどここ数年インドは民生分野での支援には力を入れてきた。今回はさらに踏み込んで軍への支援をするという協定である。これはインドの宿敵パキスタンを限りなく刺激し不安にさせる。カルザイ大統領は「パキスタンは双子の兄弟、インドは親友」とパキスタンに配慮を見せているが、その程度でパキスタンの不安が払拭するはずはない。

 インドは内戦時代は北部同盟を密かに支援していたため北部系民族とのつながりがある。アジア・タイムズによるとアフガン軍の中核をなすのは北部系のタジク人であることがインドにとっては支援しやすい要因となっている。さらにカルザイ大統領は若いときにアフガンを追われてインドに亡命していたこともあり、インドとの関係はそもそも深い。パキスタンに対抗する手段としてインドを選んだとしても不思議ではない。

 もちろんインドにも思惑がある。インドはアフガニスタンの豊富な天然資源が欲しい。ここ最近では中国がアフガンの資源に巨額な投資をして資源を根こそぎ確保しようとしていることも、インドを動かす原動力となっている。インドの野望は資源の確保だけにとどまらない。インドはパキスタンを迂回してイランを通る安定した交易ルート「イラン版シルクロード」を開きたいのである。地政学上から言ってアフガニスタンとの間には敵対するパキスタンが障壁となっている。その迂回ルートとしてイランに注目、イランとの戦略的協力体制の確立に向けて動き始めている。このインドの動きはアメリカにとっては気になるところであり、イスラエルにとっても無視できない動きである。

 インドが中央アジアや南アジアで活発に動けば、中国も黙ってはいないだろう。イランやアフガニスタンで資源を巡って衝突する可能性もある。それはただでさえ不安定なパキスタンやアフガニスタンや中央アジア諸国を巻き込み、イランを巻き込むゆえにアメリカやイスラエルも関与する一大地殻変動をこの地に引き起こす可能性がある。大国インドの存在感は、十分すぎるほど高い。
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