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2011-11-01 18:58

(連載)サイバー攻撃を禁止するために(2)

角田 勝彦  団体役員
 また2011年7月、米国防総省は初の「サイバー戦略」を公表し、サイバー空間を陸、海、空、宇宙空間に次ぐ第5の新たな戦場と宣言した。米軍は1千種類以上のサイバー兵器を実用化しているとされ、米国防総省など米政府や関連施設のネットワークが攻撃を受けた場合、軍事報復を行う可能性を排除していない。注目すべきは、破滅的なダメージを企図した敵の攻撃を、コンピューターウイルスなどを使ったサイバー兵器で「粉砕」することを目的としながら、攻撃の度合いと被害の深刻さに応じてサイバー上での防御・反撃にとどまらず、ミサイル攻撃で敵の拠点をピンポイントで叩くなど軍事力を使った武力報復の可能性も排除していないことである。なお、同盟国へのサイバー攻撃は米国への攻撃とみなされている。(来日したパネッタ米国防長官は10月25日、日米両国に対するサイバー攻撃の情報を双方の防衛当局が共有し、対抗策を協議する環境を整えるべきだとの考えを示した。我が国も防衛省が統合的なサイバー攻撃対処の中核となる部隊編成に向け準備を進めている)。

 ゲーツ前米国防長官は2011年6月4日、シンガポールで開かれている「アジア安全保障会議」で講演し、講演後の質疑では、他国からのサイバー攻撃が判明した場合には「戦争行為と見なして(武力で)反撃する」と初めて明言した。米国防総省は、2008年3月、中国がサイバー攻撃の発信源との報告書を公表しており、ゲーツ発言が中国への牽制であることは明らかである。これに対し、中国の梁光烈国防相は、翌5日講演後の質疑で、「中国でもサイバー攻撃が頻繁にある。発信源は分からない」と述べ、自らも被害者だとする立場を強調した。講演でも「中国はネットの安全を重視している。あらゆるサイバー犯罪に断固として反対し、法律に基づき取り締まっている」と主張した。

 このようにサイバー攻撃は少なくとも犯罪である。欧米の主要国は「サイバー犯罪条約」(2001年採択)に加盟し、捜査情報の提供などで緊密に連携している。日本は、不正アクセス禁止法(2002年2月施行)などはあるが、加盟に必要な国内法の整備がやっと出来たところで未加盟である。現在、武力行使の禁止は、慣習国際法として確立(1970年友好関係原則宣言や1986年ニカラグアへの軍事活動事件に関する国際司法裁判所判決)している。「武力」に何が含まれるか(たとえば経済力)には議論があるが、電子的手段を含むことには異論がないだろう。

 また通常の国際法違反ではなく、国家の国際犯罪を構成するとみられている「侵略」(国際法上、ある国家・武装勢力が別の国家・武装勢力に対して、自衛ではなく、一方的にその主権・領土や独立を侵すこと)に用いられる手段を正規の軍事力にのみ限定することは妥当ではなく、電子的手段を含むべきことにも異論はないであろう。要するに、サイバー攻撃が「侵略」であることにはほぼ合意が得られよう。野田首相は10月28日の所信表明演説で、テロやサイバー攻撃への対策を含め、危機管理対応には万全を期す旨明言した。国際的合意達成のせっかくの機会である。各国とサイバー攻撃禁止のため今後協力していくことが望まれる。(おわり)
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