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2011-12-05 10:02

注目すべきインドネシアの海軍力増強

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 報道等によれば、インドネシアが、従来の陸軍重視の方針を転換して、海軍力増強に乗り出す模様である。国防費総額も増額する。インドネシアの国防費は、2011年度は47.5兆ルピア(約4000億円)であったが、それを、2012年には64.5兆ルピア(約5500億円)、2014年には99兆ルピア(約8400億円)に、段階的に増額していく計画である。インドネシア国防省は、2012年から2014年の国防予算の内訳を公表してはいないが、海軍力の増強に充てることへの傍証はある。ユドヨノ大統領は、「国軍は、マラッカ海峡の安全確保や領海侵犯などの問題に対応できなければならない」と述べている。さらに、新規購入兵器リストには、潜水艦や駆逐艦が盛り込まれている。

 インドネシア国軍は、国土防衛、そして、近年はテロ対策のため、陸軍重視の態勢をとってきており、海軍については、艦隊を2つ保有するに過ぎなかった。それを、海軍力重視に転換しようとしている最大の要因は、いうまでもなく、中国の南シナ海やインド洋への海洋進出圧力である。中国の攻撃的な海洋進出は、地域の海洋安全保障環境を悪化させている。したがって、群島国家であるインドネシアが、海軍力重視に転換するのは極めて自然な成り行きである。また、中国の海洋進出の脅威を直接的に受けている南シナ海沿岸諸国が、それに対抗するために、米国を同地域に強くコミットさせようとしていることは、ASEANの盟主を自任するインドネシアのプライドに何らかの刺激を与えたのではないかとも推測される。

 インドネシアが、ASEANの問題について、より発言力を持とうとするのは、当然のことである。ただ、米国とインドネシアの関係は決して悪いものではなく、とりわけ近年は、かなり良好である。実際、両国は、2009年1月には海軍特殊部隊による共同演習を行っているし、2010年6月には「防衛分野における協力活動の枠組み協定」を結んでいる。したがって、インドネシアの海軍増強は、インドネシアと米国の関係を悪化させるものではなく、インドネシアによる、地域の海洋安全保障についてのバーデン・シェアリング(負担の分担)であるから、むしろ、歓迎されることになろう。さらに、ASEANの盟主であるインドネシアが、地域の海洋安全保障により深くコミットする姿勢をみせることは、この問題での、ASEANに対する中国の分断工作に対抗する結果に繋がる、という大きな意義がある。


 インドネシアが海軍力を増強し、南シナ海からインド洋にかけての航海の自由に貢献してくれれば、それは、我が国のシーレーン防衛にとっても、大いに歓迎すべきことである。我が国が、中東からインド洋、南シナ海を経て、東シナ海に至るシーレーンを独力で防衛するなどということは、およそ不可能なことである。全くの独力での対処となれば、米第7艦隊をもってしても手に余るであろう。シーレーン防衛は、沿岸諸国と、海洋安全保障について協力関係を構築していくのが現実的かつ効果的なやりかたである。我が国は、マラッカ海峡の航行の安全を巡って、インドネシアとの間には協力の実績がある。これまでは、我が国による資金援助が中心であったが、今後は両国の協力関係をさらに深化させていくべきである。その障害となるのが、武器輸出三原則と集団的自衛権の問題であり、これらの解決は必須である。
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