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2012-02-15 21:06

(連載)イデオロギー上、イランは日本の敵である!(1)

河村 洋  市民運動家
 ホルムズ海峡をめぐるイランと欧米の緊張が激化する中で、日本のオピニオン・リーダー達は「日本とイランの間で長年にわたって深く根付いた友好関係が双方の仲立ちに役立つだろう」と主張している。しかし両国の体制に性質には著しい違いがあり、イランと日本は相容れない関係である。イラン革命ではシーア派の僧侶達が近代主義のパーレビ体制を崩壊させ、西欧型の政教分離の啓蒙主義を完全に否定してこの国を暗黒時代に逆戻りさせてしまった。レザ・シャー1世統治下でのイランのネーション・ビルディングが日本の明治維新に倣ったものであることは非常によく知られており、イスラム革命はこうした国家建設を否定するものである。

 日本の指導者達がイランをどのように見ているのかについて述べる前に、イランと日本での建国イデオロギーの根本的な違いについて論じたい。徳川幕府の崩壊以来、日本の国民的な価値観は福沢諭吉と森有礼らが推し進めた啓蒙思想に基づいている。これによって日本は明治の近代化から大正デモクラシー、戦後のレジーム・チェンジへと進化していった。戦間期のドイツにワイマール民主主義が広まったように、同時期の日本にも自由な社会の強固な基盤があった。ダグラス・マッカーサーによる占領統治は、そうした基盤がある日本の民主化を触発したに過ぎない。アジア近隣諸国民が近代化に目覚めなかったのに対し、日本国民は西欧ルネッサンスの本質を学ぶことによって暗黒時代の封建主義から人間性と理性を解放した。ルネサンスが人類文化史上で最も偉大な業績であることは、普遍的に受け容れられている。日本が西洋列強とともに「文明国」の仲間入りができたのはこうした基本的な価値観によるものであり、西洋の生活様式の模倣によるものではない。福沢は自らの有名な著書『学問のすすめ』において「麦飯を食べながらでも西洋文明を学べばよい」と記している。そうした近代的精神からすれば、日本で戦後のレジーム・チェンジが成功したのは何ら不思議ではない。

 他方でイランの神権体制は、呪術、魔術、狂信主義、宗教的権威主義といった暗黒時代のイデオロギーに根ざしている。イラン革命はいわば日本の否定である。シャーの体制は自由とは程遠かったかも知れないが、啓蒙専制主義ではあった。きわめて遺憾なことに、イランは革命によって西欧型民主主義に進化する代わりに退化していった。この国は日本とドイツが歩んだ道とは正反対の道を歩むことになった。1979年のアメリカ大使館占拠事件で見られたような暴虐行為は、シーア派神権体制が抱えるおぞましい性質ならではの帰結である。テヘラン政府の究極の目的は革命の輸出である。これを恐れたサウジアラビア、ヨルダン、クウェートといったアラブ諸国はイラン・イラク戦争において、バース党の危険なイデオロギーを承知でサダム・フセインを支援したのである。

 イランの現体制はそれほどまでに恐るべきものなので、「日本がこの国との『長年にわたる友好関係』なるものを維持して欧米とは独自の行動をすべきだ」という理由が私には皆目理解できない。イデオロギーとレジームの性質という観点からすれば、イランは日本の敵なのである。また、イランは悪の枢軸の一員であり世界平和を脅かすために軍備を増強している。パーレビ体制のイランはケマル体制のトルコとともに、日本の誇りであった。イスラム革命がイランを中世の狂気に戻してしまったことで、我が国は赤っ恥をかかされたのである。日本のエリート達がそのような悪逆体制との「長年にわたる友好関係」を維持すべきだと考えていることは言語道断である。(つづく)
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