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2012-04-13 06:55

「石原首相」の“お膳立て”整わず、「新党」崩壊

杉浦 正章  政治評論家
 都知事・石原慎太郎が「石原新党」を「仕切り直し」と述べ、事実上断念した。背景に何があったのかといえば、簡単だ。「首相の座」を射止めるための“お膳立て”が整わないことに、石原がようやく気づいたからだ。そもそも石原は、亀井静香程度の政治家にキングメーカーの力量があると判断したのが甘い。当選4期、13年も都庁舎から天下を“睥睨(へいげい)”していると、自分が裸の王様であることに気づかず、首相の座などチョロいものだと思い込んだ。そこに挫折の原因がある。政治家として、その資格と適性を1番問われるのは、ミスリードだ。石原は4月12日、新党構想について「私は何も発言していないのだから、笑止千万だよ」と述べたが、これはおかしい。朝日が1月に一面トップで「石原新党3月発足 亀井・平沼氏と合意」と報じて以来、煽りにあおっているではないか。「国会の政治構造をリシャッフルする必要がある。いくらでも協力しますよ。合意はした」と新党での合意を認め、「政治家は必然性があれば一人でもやることをやる。東京より国家が大事だ」とまで言い切った。それが12日になって、いけしゃあしゃあと「新党のことは本当に迷惑だ。1回仕切り直しをする」とは、恐れ入谷の鬼子母神だ。

 石原の変節はなぜ起きたかだが、根底には本人が「首相の器」であるという妄想に取りつかれたところにある。政治家の職業のうち、知事の椅子ほど心地よいものは無いといわれる。それはそうだろう。伴食代議士などより、一国一城の主の方が、居心地がいいに決まっている。石原のように都庁への出勤は週に2度では、勤務も楽なのだ。傍若無人の毒舌を吐いていれば、周りは囃(はや)すのだから、こたえられない。問題はトップの座が長期に続くと物事が見えなくなることだ。石原は鳩山由紀夫、菅直人と続く民主党政権の体たらくを見るにつけ、「おれが、おれが」の欲望に目覚めたのだ。決定的なポイントは、自らそれをお膳立てをする能力がなかったことだ。いきおい“賞味期限切れ”の亀井静香や、たちあがれ日本の平沼赳夫の“甘言”に踊らされることになる。亀井や平沼も飽くなき政治的野望を実現するためには、石原のカリスマを利用できるだけ利用する必要があった。亀井が当初描いた構想は、小沢一郎を巻き込んで民主党を分裂に持ち込み、自民党の一部も引き込んだ政界再編による新党だった。これに大阪の維新の会や名古屋など自治体トップの野望を加えて、“野望連合”で「石原首相」を目指そうとしたのだ。

 ところが、亀井の働きかけに、小沢は鼻もひっかけなかった。そもそも小沢ほど先の見える男が、79歳の“老害”を担ぐわけがないのだ。かつて小沢は、側近に「老害新党」と漏らしているという。そうこうするうちに、今度は亀井の尻に火が付いた。方向音痴にも消費増税法案反対で国民新党内がまとまると思ったのが甘かった。クーデターが起きて、亀井は放逐された。この「亀の変」をみて、さすがの石原も「こりゃダメだ」と気づいたのだ。石原の最後の頼みの綱が「今をときめく」ではなくて、「今だけ」ときめく大阪維新の会の橋下徹だ。4日に京都での用事にかこつけて長時間会談したが、出てきたものは「大阪維新の会の講師になってもらう」(橋下)話だけ。話の中身は明らかになっていないが、石原が橋下の協力を取り付けたのなら、12日の「仕切り直し」発言はあり得ない。したがって、確定的に不調に終わったのだ。橋下ほどの小利口な男が、東京の老害におめおめと“活用”されるわけがあるまい。

 こうして「石原新党」は、脆くも挫折することになったのだが、それを表明するタイミングが見つからない。ところが、昨年暮れから石原新党に執着している産経が12日付朝刊で「石原新党、5月末結成で最終調整」とやったのがきっかけとなった。記事の中に「国民新党議員の参加が見送られることにより、当初もくろんでいた30人程度から20人を下回る可能性もある」とあるのをとらえたのだ。石原は、記者団に「とにかく、わたしは当事者ではない。20人足らずの政党を作ったって、何になる。本当に」と臆面もなく“終息宣言”をしたのだ。既に息子の石原伸晃が「父は都知事であるから輝く」と看破している通りだ。「首相の座」など「10年早い」どころか、「30年遅い」のだ。民主、自民両党は、手を叩いて石原の頓挫を喜んでいるが、こうした魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する状況を作っているのは、既成政党であることを忘れてはなるまい。実行力のない既成政党がその存在理由を問われているのだ。野田は原発再稼働で、もたもたするべきではない。消費増税法案でもまっしぐらにまい進すべきだ。しょせん世の中は、半可通が半分だ。両問題でもたつけば、推進論の支持層まで敵に回す。
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