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2012-04-18 06:49

石原の尖閣購入は、老害・無責任政治の極致だ

杉浦 正章  政治評論家
 「東京が尖閣諸島を守ります」と都知事・石原慎太郎は言うが、東京都に持論の核武装でもさせるつもりか。石原の購入方針の背景には、失速した新党構想を再浮上させて、自らが首相を目指すという飽くなき権力志向が垣間見える。日本が実効支配して、領土問題にはなっていない尖閣問題を、あえて騒ぎ立てれば、中国の思うつぼに陥ることが分かっていない。高齢者特有の短絡思想であり、無責任な老害をさらけ出しただけだ。地権者に売る気があるのなら、尖閣諸島は国が購入すればよいことだ。とにかく人間分をわきまえることが大事だが、この男はそれを知らない。下品にも「政府に吠え面かかせてやる」とワシントンで恥も外聞も無く吠えまくった。石原は、1978年に尖閣諸島に灯台を建て、1977年に西村真悟が上陸した際に船上から見守ったが、かねてから尖閣問題に妄執を抱いて、これを引っかき回すことを生きがいにしてきた。しかし、石原が尖閣を購入しようが、政府は所有者と賃貸契約関係にあり、賃貸権を解除しない限り、利用権は国にある。上陸不許可などの措置は継続可能なのだ。たとえ東京都が、石原構想に本腰を入れて現地調査をしようとしても、国は上陸を許可しなければよい話でもある。

 言うまでもないが、外交・安保は国の専権事項であり、東京都が尖閣諸島を防衛することは出来ない。ましてや都民の血税を自らの“趣味”のために使うことなど許されるわけがない。だいたい新銀行東京の破綻の責任を問わないなど、都民は「石原政治」に甘すぎる。さすがに都議会をクリアする必要があることには気づいていたとみえて、石原の言うがままの副知事・猪瀬直樹は「資金は寄付で調達すれば、予算上の問題は生じない」とコメントしているが、分かっていない。ことは金銭上の問題だけではない。外交・安保に密接に絡み、一自治体による憲法違反の外交権侵害となるのだ。尖閣諸島に関しては、既に他国に実効支配されている竹島や北方領土とは異なり、日本の実効支配下にある。「尖閣諸島に領土問題は存在しない」というのが一貫した政府の外交方針であり、中国の侵略がない限り、海上パトロールを続け、実効支配を継続すればよいことだ。石原は自らの行動が、今のところ小康状態にある尖閣問題の火をかき立て、中国を刺激して、海洋進出を一段と強める可能性のあることに考えが及ばない。

 中国は石原発言を逆手にとって、一層「領土問題の存在」を俎上に載せてくる可能性がある。そもそも東京都が買い取り、「都民に役立つ施設」を作り、一触即発の危機に陥ったら、東京都が防衛するのか。尖閣問題は、石原のように大風呂敷を広げて荒唐無稽な構想を打ち出し、あえて平地に波乱をもたらすことでは解決しない。石原は「このまま放置しておくと、あの島はどうなるか分からない。ゆゆしき問題だ」と指摘するが、疝気筋が出しゃばる問題ではないのだ。政府は放置してもいない。都が購入すれば尖閣問題が解決するわけではなく、もともと完結している日本の実効支配は変化しない。事態をこじらす“逆効果”だけが発生する。石原の狙いは、冒頭述べたように新党構想の再浮上だ。石原はなんとしてでも首相の座に座りたいのだ。そのためにあらゆる問題を活用して、石原待望論を沸き立たせたいのだ。

 しかし、この政局も石原の出る幕ではない。永田町には待望論などが巻き起こる雰囲気も素地もない。賞味期限切れの老政治家たちが、何とか一花咲かせようとうごめいているだけに過ぎない。大阪市長・橋下徹には事前に相談したとみえて、橋下だけはもろ手を挙げて賛意を示しているが、その他の知事らは総じて総スカンだ。パフォーマンスは一目瞭然なのだ。石原のもう一つの狙いは、政府に尖閣諸島を買い取らせるところにあるのかもしれない。石原は「本当は国が買い上げた方がいいが、外務省がびくびくしている」と述べているのだ。これについて官房長官・藤村修は「必要ならそういう発想のもとに進めることも十分ある」と発言しているが、本来政府が買い取るべき話だ。実効支配を担保するには、この方法がよい。政府は、石原に言われて動くのではなく、主体的に購入へと動くべきだ。核武装論を堂々と述べたり、中国に無用の敵がい心を燃やしたり、どうも石原は、弱肉強食の帝国主義時代の妄想にとらわれているとしか思えない。御年79歳。そろそろ老害の幕を下ろしたらどうか。 
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