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2012-04-20 10:27

法律による憲法解釈の変更は可能か

角田 勝彦  団体職員
 自民党の国防部会と安全保障調査会の合同会議は、4月12日、「わが国は国連憲章に定められた(個別的、集団的自衛の)権利を行使することができる」と明記し、憲法解釈の変更により集団的自衛権行使を可能としようとする安全保障基本法案の概要を了承した。しかし、言うまでもなく憲法は法律の上位にある。憲法上集団的自衛権の行使が認められるという解釈に立てればそもそも安全保障基本法案のような法律制定は必要ないのだから、自民党合同会議は、憲法上行使は認められないという解釈に立っていると思われる。法律ではこの解釈を変更することは出来ないのである。なお合同会議では「解釈ではなく憲法改正で集団的自衛権行使を可能にすべきだ」との意見もあった由である。集団的自衛権は、同盟国などへ武力攻撃があった場合、自国が直接攻撃を受けていなくてもその攻撃を実力で阻止する権利である。政府は行使について憲法上認められないと解釈している。

 自民党は結党以来「改憲」を党是としており、2005年に新憲法草案をまとめている。同党は、2012年を「日本の存亡をかけた政治決戦の年」として衆院解散・総選挙での政権奪還を目標に掲げており、与野党対決の色彩を強める意味からも、このほど党の憲法改正推進本部(本部長・保利耕輔元政調会長)が保守色の強い憲法改正原案を作成した。安全保障分野については、首相を最高指揮権者とする「自衛軍を保持」と明記し、現9条の「戦争放棄」は維持するものの、集団的自衛権の行使も念頭に「自衛権の発動を妨げるものではない」として「自衛権」を明確化した。ただし、天皇を「元首」とし、自衛隊を「自衛軍」と明記するなど保守色の強い内容に異論が出たため、党の憲法改正推進本部は、2月28日に予定していた第2次憲法改正草案の原案決定を見送っている。4月には成案がまとめられる予定である。民主党は、与党になったとたん党の憲法改正案を協議してきた憲法調査会を廃止した。菅直人首相は2010年8月5日午後の参院予算委員会で、集団的自衛権の行使を禁じている政府の憲法解釈について「変える予定はない」と表明した。非核三原則や、事実上の武器禁輸政策である武器輸出三原則を堅持する意向も示した。

 野田首相は集団的自衛権の行使容認を持論としているようだが、内閣の憲法擁護義務を繰り返し、衆参両院の憲法審査会も動かさない。 ただし、民主党政権下で、2010年末には初の防衛力整備の基本方針となる「防衛計画の大綱」と、来年度から5年間の「中期防衛力整備計画」が閣議決定されている。公明党の態度も明らかである。山口代表は2月28日の記者会見で、「集団的自衛権についての政府の考え方は確立しており、変更すべきではない」として不快感を表明した。衆院選での連携が不可欠とする自民党の保利氏はその後の記者会見で「原案では集団的自衛権とは一言も触れていない」と釈明に追われた。また言うまでもなく社民党は護憲を党是としている。さらに内閣法制局も本件については黙っていられまい。1990年のイラクによるクウェート侵攻に始まる湾岸戦争時、米国が日本に多国籍軍への協力を求めたが、集団的自衛権の行使は違憲とする内閣法制局の憲法解釈が障壁になった。

 当時自民党幹事長だった小沢氏が、国連決議に基づく協力なら自衛隊派遣は可能と主張し「国連平和協力法案」を策定したが、従来の政府解釈との矛盾を攻撃されて廃案になった経緯がある。小沢氏には法制局が政治家による判断を縛っているとの問題意識がある。民主党は、2009年衆院選のマニフェストで「政治主導」を掲げ、政権に就いたのち、鳩山内閣は憲法や法令に関する大事な答弁を官僚に任せるのは「政治主導に反する」と法制局長官の国会答弁を禁止したが、野田内閣は「官僚の知識や能力を活用する」として2012年1月に復活させた。集団的自衛権については、当然、従来の方針が維持されると考えられる。なお内閣法制局は内閣(政府)が国会に提出する新規法案を、閣議決定に先立って現行法の見地から問題がないかを審査する立場にある。議員立法でなければ安全保障基本法案は国会提出も不可能であろう。
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