国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-04-26 11:30

(連載)米国防権限法を考える(1)

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 米国防権限法は、本来は米国の国防費にかかわる歳出法案である。その法案の中にイラン中央銀行(CBI)制裁条項が挿入された。この「制裁」という言葉から、どうも対CBIへの直接的制裁と受け止められがちである。法的には、第三国の金融関係機関が、米国の金融関係機関との取引を継続することを望むならば、イラン金融機関との関係を断つよう迫る間接的制裁となっている。したがって、法が適用される場所は米国であり、対象はイランと金融取引をする第三国金融機関である。

 米国の対イラン経済制裁は、1979年の在テヘラン米国大使館占拠事件で関係が悪化し、米国大統領令として制裁がはじまる。その後、1996年のイラン・リビア制裁法(IRSA、200年改正)、2010年のイラン包括制裁法(CISADA)などが米議会で成立している。これらの法案は、キューバへの経済制裁を謳った「ヘルムズ・バートン法」、ミャンマー制裁法などと同様で、国内法で外国企業の対外活動に対する制裁を行うというものである。このため、国際社会では、同法はWTO協定を含む国際法上、許容される範囲を超えた「域外適用」になると指摘する声もある(日本も2007年10月に米国に対しWTO協定との整合性の問題がある旨指摘している)。

 オバマ政権の対イラン政策は、強硬姿勢をとる共和党や在米ユダヤロビーから、及び腰だとの批判を受ける一方、国際社会からの指摘に配慮し、制裁法の運用には慎重姿勢で臨まざるを得ないという難しい立場にある。ここで注目したいのは、2010年に米国議会両院で承認され、7月にオバマ大統領が署名したイラン包括制裁法案である。この法案の104条は、米財務省が主体となって、イランの革命防衛隊に関係する取引を行っている第三者金融機関の米国におけるコルレス口座が開設・維持されることを禁じる措置について定めている。この施行規則については、米財務省が8月に開示したが、運用面で不透明な点もあり、国際的に問題があるとみられている。

 この法案が成立した2010年において、オバマ政権の政策立案に影響を与えた国内要因のうちウェイトが高かったのは、11月の中間選挙であったといわれている。オバマ政権は、2011年11月に米財務省主導で愛国者法第311条に基づいて、イラン中央銀行と第三者金融機関のコルレス口座を開設・維持を禁じる措置を発動しており、2010年の経緯とよく似た動きを見せている。しかし、オバマ政権の弱腰外交を批判する議会からは、2012年11月の米大統領選挙および上下両院選挙を前にして、より強硬姿勢を示すべきとの声が出ている。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム