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2012-04-27 12:20

(連載)米国防権限法を考える(2)

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 例えば、対イラン制裁を強める「イラン脅威削減法」が提案されたことが挙げられる(下院では可決)。これにより、オバマ政権としては、議会の要求に配慮するとともに、国際社会からの「域外適用」という非難を和らげられる対イラン制裁法を立案する必要性に再び迫られることになった。その議会との妥協が「米国防権限法」への署名である(12月上旬に議会に反対を伝えたが、同月31日には署名した)。同法の特徴は、(1)石油価格の高騰を避けるため、実施まで6か月先送りすることができる行政権限を明記している、(2)大統領判断で、対イラン制裁の目標達成に協力的な企業国や「国家安全保障上の利益」につながる国については、制裁措置発動を撤回できる点である。

 これを適用し、米国は3月20日、同法案の適用対象から11か国を除外するとの発表を行った。日本は英、仏、独、伊などともにその11か国に含まれている。しかし、イラン産原油の主要種入国であり、輸入量削減に消極的であった中国、韓国、インド、トルコ、南アフリカは適用除外とならなかった。米国はこの法案で、イラン産原油の顧客を減らし、顧客がイランとの価格交渉で有利になる状況を作り出したといえる。実際、イランの新聞では、値引きを迫る中国に対する厳しい批判記事が掲載されている。この他に同法案のポイントとなるものとして次のが挙げられる。

 1つは、米国防権限法に対し、表面的には厳しい反発姿勢を示している中国やインドではあるが、それぞれの国益の観点から米国とイランの重要性を比較すれば、対イラン政策を変更する可能性があるという点である。2つ目は、米大統領選挙を前にして、米国の対イラン制裁のレベルが明確になり、先行き不透明要因の1つが消えたことである。3つ目は、サウジアラビアが、増産姿勢を表明しており、イラン原油に代わる供給先が確保できるとの安堵感が国際社会に流れていることである。4つ目は、イランが、安保理常任理事国プラス・ドイツ6者との協議開催を要請しており、トルコなどのイラン外交も活発化している点である。

 これらのポイントから、イランの革命防衛隊のホルムズ海峡やサウジアラビア東部州での暴発的行為がない限り、石油価格は下方に動く条件が整いつつあるといえる。しかし、原油価格の高止まりの影響で、日本でもガソリン価格がリッター当たり160円を超えるなど経済への悪影響が出ている。原油価格を巡っては、イラン要因以外にも、リビアでの部族衝突、イラクで多発するテロ事件、ナイジェリアや南スーダンでの政治不安の高まりなど不安材料が多数ある。さらに、EUのイラン産原油取引に関する保険・再保険禁止に伴う影響もある。こうして見ると、日本で原子力発電がほとんど停止する中、イランをはじめ中東情勢の安定化は日本のエネルギー安全保障に直結するのだと再度認識させられる。このことを踏まえて、日本の対外政策のあり方を今一度見直す時かもしれない。(おわり)
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