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2012-05-24 06:54

野田は「0増5減」先行で輿石を押さえよ

杉浦 正章  政治評論家
 これだけ“派利派略”丸出しの公党の幹事長を知らない。消費税政局が佳境に入ってきて、幹事長・輿石東が、“小沢別動隊長”としての“真価”を発揮しだしたのだ。衆院の定数是正と選挙制度を話し合う5月23日の幹事長・書記局長会談を、事実上ぶちこわす主役を演じた。「定数是正」がなければ「解散なし」とする元代表・小沢一郎の思惑通りに動いているのだ。会談の早期とりまとめを指示した首相・野田佳彦は結局コケにされた形だ。野田は解散への主導権を確保するには衆院の定数を「違憲状態」とする最高裁の判決をクリアする必要に迫られている。首相の解散権は絶対で、「違憲状態」で解散・総選挙をした例はいくらでもあるから、ぎりぎりの局面では解散できないことはない。だが、政治的には問題視される。それには小選挙区議席の「0増・5減」だけは、決着をつけておかねばならない。ところが 輿石は、幹事長代行・樽床伸二に命じて作らせたずさんきわまりない「私案」に固執、譲ろうとはしない。「私案」が一票の格差是正のために、小選挙区の定数を5減しているのは当然だが、比例区がはちゃめちゃだ。比例区を11ブロックから全国区にして、定数は75減だ。素人が民主党と各党の要求をつぎはぎしたような安易な内容であり、野党の総反発でいったんお蔵入りになったものだ。公明党に到っては議席が半減する。激昂するわけで、まるで与野党協議を壊すための案かと勘ぐりたくなる。

 本来なら、とりあえずは自民党も主張している「0増5減」だけを先行させて、比例区などの問題は制度の抜本改革に委ねるのが筋だ。野田はこれを意識して、輿石に幹事長レベルでの調整を指示したのだ。22日も「何としても消費税増税関連法案の衆院採決前に結論を出さなければならない」と意気込んでいる。ところが輿石は、野田の指示など馬耳東風と聞き流し、小沢の解散回避戦略の上で“踊り”始めたのだ。与野党会談の席でも、輿石は言わずもがなの特例公債法案や公務員制度改革関連法案の早期処理を求め、石原を「そういうことまで言うなら、私はここにはいられない」と退席させた。さすがに日教組で磨きをかけた政治駆け引きのプロとあって、石原程度の“若造”を手玉に取るのはわけはないのだろう。怒らせた狙いは、定数是正の処理を遅らせ、消費増税法案を継続審議に持ち込むことにある。どこ吹く風と輿石は記者団に「野党もやりたくなくて、わたしのせいにしている」とうそぶいているという。

 要するに、新聞向けには「党内融和第一。分裂回避」をいいながら、その実は解散先延ばしという小沢戦略の上に乗っているのだ。野田が肝心のポイントで「ダダ漏れ」では、輿石のいうがままとなり、定数是正もできないまま解散への動きをけん制され、主導権を握れなくなってしまうのは、目に見えている。加えて、輿石では野党の信頼を得られない。したがって、成案を得られる見通しは立ち難い。ここは、一刻も早く谷垣との党首会談を実現して大筋を決めるなど、自ら事に当たるしか解決策はあるまい。方向はとりあえず自民党と一致している「0増5減」だけを先行させ、違憲状態を解消することだ。選挙制度は政治停滞の根源である小選挙区比例代表併用制から中選挙区制に戻すことだ。小選挙区制はその時々の「風」で政権が左右され、死に票が多すぎて、民意が反映されない。議員の質も比例当選者も含めて悪すぎる。一見「偏差値」の高そうな“優等生”ばかりが増えて、実行力を伴う「政治家」が出ない。まさにドングリの背比べだ。だから物事を「決められない政治」が定着してしまったのだ。

 逆に中選挙区は“政治家”が輩出する。「合法的手段」を「がっぽうてきてだん」と読んだ国対委員長・中野四郎(故人)が、国対根回しに関しては右に出る者がいない。こういう政治家が中選挙区では一杯出てくる。“一芸”に秀でる議員が集まり、政権を支える形だ。日本型政治には2大政党制よりも民意をより正確に反映させる中選挙区による多党制が好ましい。このように、1994年に導入が決まった現行制度は弊害のみが目立つようになった。推進した前衆院議長・河野洋平がその弊害を認め、国民に陳謝しているが、大それた失敗をしたものだ。これだけは謝って済む問題ではあるまい。朝日新聞を始め小選挙区制をはやし立てたマスコミも反省すべきだ。樽床程度の政治家が作った案ではなく、「選挙制度審議会」に専門家を集めて審議させ、中選挙区制度に戻すべきだ。定数が是正済みであれば、次の選挙に間に合わす必要はない。次の次の選挙に間に合わせればよいのだ。 
 
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