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2012-07-25 12:18

丹羽駐中国大使更迭の意味合い-日本外交の挫折

吉田 重信  日中関係研究所主宰
 丹羽宇一郎駐中国大使が近く更迭されるという。丹羽大使が英国のメディアに「石原東京都知事による尖閣購入計画は日中関係を緊張させる」と述べたことの責任をとらされたという。民主党政権は、外務省の専門職たる大使を排除して、わざわざ丹羽氏という商社マンを大使に任命した経緯からすれば、当初の民主党の思惑が失敗したことを意味する。今回民主党政権が大使の罷免を求める野党(自民党など)の圧力に屈して、もともと自らが選んだ駐中国の大使を不信任した行為は、民主党政権の挫折であるのみならず、日本外交の挫折でもあると言わざるをえない。

 なぜなら、出先の大使としては、自分が駐在する外国(任国)と祖国日本との関係をできるかぎり良好にするために日夜腐心するのが任務の第一であるからである。したがって、丹羽大使の発言は極く当たり前のことであり、本来ならば勇気ある言葉として推奨されることがあっても、批判されるような筋合いではないからだ。ところが、外務省は「丹羽は国賊である」と非難する外部の圧力に屈してしまった。何故、外務省は「丹羽大使の発言は妥当である」として身を張ってでも丹羽大使を擁護しなかったのか、かつて外務省で働いたことのある筆者としては理解に苦しむ。戦時中外務省は対外強硬論を吐く軍部の圧力に屈して、対中、対米戦争の動きに抵抗せずに、結局は敗戦という国家の崩壊を招いたことの責任を忘れてしまったのであろうか?

 外務省が出先の大使を信用しないのであれば、日本は有効な外交政策を遂行できなくなる。とくに対中国政策においてある。他方、米国政府は、中国系の元商務長官のゲイリー・フェイ・ロック(中国名・駱家輝)を北京に大使として派遣している。ロック大使はオバマ大統領の個人的な信任が厚いうえに、米国籍の華僑であるがゆえに、中国政府にも厚く信用されている。同大使が、最近中国人盲目の民主派のひとりの米国への実質的な亡命を助けるという困難な外交的案件の処理に成功したのは、同大使が米中首脳によって厚く信頼されていたからにほかならない。

 このように米中間には、相互に信頼できる対話のチャネルが存在している。出先の大使を軽々に更迭する無神経な民主党政権は、対中外交を処理する能力を欠いていることをまたしても露呈したのである。日中は、本年9月に「日中国交回復40周年」を迎えることになっている。このような出先の大使を大事にしない民主党政権はまともな外交をおこなうことを期待できそうもない。
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