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2012-11-02 11:49

(連載)超低金利政策は本当に有効なのか(1)

中岡 望  ジャーナリスト、国際基督教大学非常勤講師
 最近の経済政策を巡る議論は、「財政均衡」と「超金融緩和」の大合唱となっている。ノーベル経済学賞の受賞者であるポール・クルーグマン・プリンストン大学教授やジョセフ・ステフィグリッツ・コロンビア大学教授はいずれも、こうした風潮に批判的である。クルーグマン教授は、あたかも財政均衡を達成すれば景気が回復して、経済が再び成長するという考え方は間違っていると主張している。同教授は「地位の高い人々は財政赤字削減にいますぐ動かないと大災害がやってくるという黙示録じみた予言をするのが大流行になっている」と書いている。要するに、財政赤字を削減しないと“第2のギリシャ”になってしまうということだ。さらに財政緊縮こそが景気回復と経済成長に繋がるという理論(同教授は、それを“拡張的緊縮政策=expansionary austerity”と呼んでいる)を支持する歴史的事実も統計的分析も存在しないと指摘している。

 財政政策だけでなく、金融政策についても、同様なことが言えるのではないだろうか。今や世界では、不況を脱するには「ゼロ金利政策」と「量的緩和政策」を合わせた“超低金利政策”が必要だという主張が蔓延している。IMFを中心とする国際機関のエコノミストはこぞって超低金利政策を主張し、これに呼応するようにアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)もゼロ金利と量的緩和政策の継続を決め、さらに金融緩和措置を講ずるとみられている。日本も同様で、日本銀行も同様な動きを見せている。

 9月13日、FRBはQE3(第三次量的緩和政策)の実施を発表した。その内容は毎月400億ドルの住宅担保証券を無制限に買い続けるというものである。日本銀行も9月19日に2010年に創設された「包括的な金融緩和政策」を拡大し、資産買入資金を10兆円増額して、80兆円にすると発表した。日銀は、さらに金融緩和を進めることを検討している。

 問題は、超金融緩和政策が効果を発揮しているかどうかである。これに関して10月5日に行われた記者会見での白川方明日銀総裁の発言が注目される。同総裁は金融緩和の効果の第一段階は金利低下と銀行の貸出行動、第二段階は貸出しを通しての実体経済への波及を経て現われると指摘している。そして、同総裁は、金利低下という第一段階は順調に進んでいるが、「極めて緩和的な金融環境を利用して、活溌な投資や支出が行われているかというと、残念ながら、そうした状況にはなっていません」と発言している。超金融緩和政策の実態経済への目立った波及効果は見られないということである。(つづく)
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