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2012-11-08 07:00

日米関係改善には早期政権交代しかない

杉浦 正章  政治評論家
 オバマ政権の継続が決まったが、日本の政局の流動化が日米関係の改善に大きな影を落としている。鳩山政権が危機に陥れた日米同盟関係は辛うじて保たれているが、尖閣・竹島両問題や原発ゼロ政策などの民主党政権がもたらした外交・安保上の失政は、オバマ前期の対日政策を3年間にわたり翻弄し続けた。首相・野田佳彦は、オバマとの首脳会談などに意欲を燃やしているが、レームダック政権は積極外交を控えるのが世界的な慣習である。一方で、次期政権を担うとみられる自民党総裁・安倍晋三は、政権の最重要課題を日米関係の再構築におき、政権獲得後早期にオバマとの会談を実現すべきである。民主党政権の数々の失策のうちでも最大級のものは、元首相・鳩山由紀夫による普天間移設発言と日米中正三角形構造の追求であろう。「最低でも県外」発言は自滅を招いたが、国の安全保障を米国の若者の命をかけた同盟関係に依存しながら、「正三角形」論はありえない。外交・安保上の無知がもたらす民主党政権の日米関係毀損の構図は野田政権にまで及んでいる。「原発ゼロ」政策がその際たるものだ。

 強固な日米安保体制がもたらした最大の副産物の一つは日米原子力協定であろう。同協定の中核である核燃料サイクルの問題は原発ゼロ政策では成り立たなくなる恐れがある。米政府から危惧の念が表明され、野田は当面を糊塗した。一方で「原発ゼロ」に警告する知日派有識者による「第3次アーミテージ・ナイ報告書」が発表された。同報告は「日本は一流国であり続けたいのか、それとも二流国になることに甘んじるのか」と鋭い問題提起をして、「日本の包括的な安全保障にとっても、安全でクリーンな原子力発電は必須であり、原子力の研究開発に関する日米協力が不可欠である」と指摘している。加えて、日米安保の脆弱化は周辺諸国の領土的な野望を惹起(じゃっき)して、メドベージェフ、李明博の北方領土、竹島視察、尖閣諸島をめぐる中国のさまざまなけん制行為を生じさせている。すべてが民主党政権の3年間がもたらしたものである。とりわけ日中関係の悪化は、米国の極東政策に影響を及ぼさざるを得ない情勢を招いている。米国は中国が尖閣諸島をめぐり軍事行動に出た場合には、安保条約第5条による日本防衛義務を果たすと中国側をけん制しているが、本音ではない。本音は極東における“日中激突”を望んではいないのだ。早期の関係改善を陰に陽に求めてきているのだ。

 一部方向音痴の学者の中には対中妥協策の一つとしてに「中国に対して領土問題があることを認めよ」という主張があるが、問題は野田政権がこれに乗りかねないことであろう。安倍もテレビで「野田政権は領土問題の存在を認める方向で検討している。まさしく日本の危機だ。」と暴露し、危惧の念を表明している。領土問題でつけいる隙を自ら作ってしまうのが、民主党政権である。問題は、沖縄問題にせよ、領土問題にせよ、オバマ政権側の政策変更で生じてはいないことである。すべては、民主党政権に起因している日本の国内問題であることを忘れてはなるまい。オバマ再選でクリントン国務長官と知日派のキャンベル国務次官補が交代する方向であり、防衛相・森本敏は11月7日、「当面の関心は2期目の政権を支える閣僚や政策遂行の中心的な人物がどう代わるかだ」ともっともらしい解説をしている。しかし、大統領は再任であり、誰が国務長官になろうと、大きな変化はない。むしろ日米関係にとって最重要の問題は、日本の政権がいかに早く交代するかの方なのである。したがって、12月に開始する「日米防衛協力のための指針」協議も、事務当局だけに任せて野田政権の関与は避けるべきであろう。

 安倍は、自民党が政権を取った場合には、まず民主党政権の3年半がもたらした、外交・安保上の“崩壊現象”を早期に食い止めなければならない。まず国内的には、原発ゼロ政策を改め、核燃料サイクルの流れを再び確立させて、安定的なエネルギー供給の路線を明示すべきであろう。その上で早期に訪米してオバマと会談し、日米同盟関係を盤石の基盤の上に置くことが必要だ。さらに日米同盟の強化を裏打ちするためにも、日中、日韓関係の改善にも取り組むことだ。とりわけ日韓関係は、このまま放置できない。贈収賄事件が身内にまで及んで、対日関係で国民の目をそらそうとした李明博はもう相手にする必要はない。新大統領の就任式典が2月25日にあるが、絶好の関係改善のチャンスとして、安倍は訪韓することを検討すべきだ。日本の首相の式典参加は新大統領にとっても大きなプラス材料だ。中国は3月の全人代で習近平に政権が移行するが、それを待って関係改善に乗り出すべきであろう。日中・日韓関係の改善が日米同盟関係の強化につながる構図であることを意識すべきだ。経済ではTPP(環太平洋経済連携協定)への参加問題がある。野田政権はこれ以上の離党者が出るのを懸念して、参加表明を避けているのが実情だ。自民党政権では参加の決断に向けて対米交渉を促進すべきであろう。
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