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2013-02-06 06:56

政府は、なぜレーダー照射の公表を遅らせたか?

杉浦 正章  政治評論家
 問題は偶発戦争に発展しかねない事態だというのに、なぜ政府は1週間も護衛艦に対する射撃管制用レーダー照射の公表を遅らせたかと言うことだ。ヘリへの照射からは18日もたっている。政府は意図的に中国フリゲート艦によるレーダー照射事件を伏せていたとしか思えない。最大級の挑発を国民に知らせなかったのはおかしい。国民の全くあずかり知らぬところで軍事衝突が起きた日中戦争を想起させ、りつ然とせざるを得ない。野党は国会で経緯の明確化を迫るべきだ。一方、政府は既に合意している日中ホットラインの設置を早期に実施に移すべきだ。まず照射事件に対する政府の対応を分析すると、2月5日に防衛相・小野寺五典が急きょ発表した内容は、虚偽臭紛紛である。小野寺は発表が遅れた理由について「慎重を期し、正確な分析、検討に時間がかかった。きょう分かったので発表した」と述べたが、射撃管制用レーダーの照射を受けた護衛艦が、1週間もその真偽を検討するわけがない。即応できる態勢がなければ護衛艦の役目は果たせない。事実、小野寺が語るに落ちた発言をしている。照射を受けて「現場に緊張感が走る事態だったと」述べているではないか。護衛艦はすぐに分かったから緊張が走ったのである。首相官邸には防衛省から照射当日の1月30日にレーダー照射を受けたとの報告があった。

 イラク戦争でも米軍戦闘機はレーダー照射を受ければ瞬時に、照射した対象をミサイル攻撃している。戦闘機に即応できる装置を積んでいて、護衛艦が1週間もかかるとは噴飯物だ。ヘリへの照射も数分間にわたるものといわれ、最初から分かっていた可能性が大きい。防衛省はヘリでのレーダー照射の感知が弱かったため、データ分析に時間がかかったとしているが、これも怪しい。現に前日18日には国務長官・クリントンの尖閣問題で中国の一方的行為に反対する旨の重要発言があったばかりだ。中国海軍が発言へのけん制に出たと見ることは可能だ。それではなぜ発表を遅らせたかというと、ヘリの場合は、公明党代表・山口那津男の訪中を控えていた。共産党総書記・習近平との会談が予想された時期であり、事実25日には会談が実現、日中雪解けムードが台頭していた。加えて、元首相・村山富市や前衆院議員・加藤紘一ら日中友好協会の訪中が続いた。村山は28日には、北京で中日友好協会会長の唐家センと会談している。こうした一連の外交努力を考慮したのだろう。しかし、それならそれで外交配慮があったと説明すればよいではないか。

 こうした中でのフリゲート艦による30日の照射となったが、安倍は同日中に報告を受けているからか、2月1日の本会議答弁で尖閣への公務員常駐について「選択肢の一つ」と、首相になって初めて踏み込んだ発言をしている。また沖縄初訪問でも「領土、領海、領空に対する挑発が続いている」と発言した。照射を知っての発言であり、いずれも強い対中けん制の意味が込められていた可能性が強い。国民はその背後を知らぬままであった。問題は、レーダー照射は中国海軍の暴走によるものなのか、政府や共産党首脳レベルで黙認したものなのかだ。習近平は山口に対しては安倍との首脳会談に前向き姿勢を見せる反面、28日には尖閣について「正当な権益は放棄しない」と発言している。国内では不満分子が対日弱腰姿勢を口実にナショナリズムを煽り、軍や政府を突き上げている。1月14日には軍機関紙『解放軍報』が一面トップで「中国人民解放軍総参謀部は、2013年の軍事訓練に関して、戦争にしっかり備えよと指示した」と報じた。海軍首脳は習近平の側近で押さえている。こうしたことを考えれば、海軍はあうんの呼吸で習近平の意向を汲んで行動している可能性が強い。

 加えて、日本の軍事力偵察がある。最初にヘリで軽く試して、日本側から何ら反応がない。それでは護衛艦で試してやれ、ということになったのだろう。アメリカの戦艦や最近投入された空中警戒管制機(AWACS)に対して照射したら、すぐに攻撃される可能性が強いから、攻撃しないと分かっている日本に対して行ったのだ。国内向けには「日本を脅してやった」と胸を張れる。こうして、したたかな習近平の硬軟両様の対日姿勢が浮き彫りとなったことになる。自衛隊は十分承知だろうが、よほどの攻撃に発展しない限り、挑発に乗ってはならない。ここは一発くらった上で対応するのが最良の戦略だからだ。しかし、安倍も、山口や村山の訪中を生かすタイミングをつかみかねている。こうした緊迫した事態には、歴史に学ぶ必要がある。米ソ両国は一触即発のキューバ危機の後の1963年、ホワイトハウスとクレムリンとの間に、ホットラインを敷いた。トップ同士が軍の行動が本気なのかどうかを直接話し合う必要があるのだ。既に昨年3月に民主党幹事長・輿石東と共産党対外連絡部長・王家瑞との間で重大事件や突発事故が発生した際に意思疎通を図るホットラインの創設などを盛り込んだ「交流・協力に関する覚書」が調印されている。これを早期に実現させることが、日中危機回避の第一歩だろう。
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