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2013-03-01 06:02

内紛が物語る「維新」空中分解の予感

杉浦 正章  政治評論家
 江戸っ子流にいえば維新の内紛は「ガキのけんかでもあるめえし」というところだろう。それにしても日銀総裁という最大の人事案件まで得意の“政治的アピール”に使うとは、維新の会共同代表・橋下徹はどういう神経の持ち主なのだろうか。国会議員団を“下部(しもべ)”とでも考えているのだろうか。もともと総選挙における大阪以外の地方区の壊滅は、橋下維新の虚飾性を露呈するものであった。ブームは幻であったのだ。これでは参院選挙で、再びブームなど起きるはずがない。かねてから「双頭のヘビ」と指摘してきたところだが、大阪から国会議員団を“遠隔操縦”することなど不可能だ。ましてや、橋下の頭の上がらない石原慎太郎がトップだ。「黒田東彦日銀総裁」人事に異論を唱えたかったら、大阪市長を辞めて自ら衆院議員になるべきであったのだ。維新の国会議員団の判断はまっとうであった。騒動の発端は、日銀総裁に副総裁候補の岩田規久男を充てるべきだとする橋下の主張に国会議員団側が反発したことにある。国対委員長・小沢鋭仁が「人事はベストに近い」と述べ、橋下の逆転人事を「黒田さんは辞退するだろう」と反対したのは、筋が通っている。橋下は財務省出身だけを問題視しているが、日銀人事は純粋に適材かどうかに絞って判断すべきであって、経歴を問題にするのは不見識のそしりをまぬがれない。「口を出すな」という声ももっともだ。

 ところが、橋下はこけんに関わると思ったに違いない。国会議員団にメールを送り、方針を覆そうとしたが、議員団の大勢は人事容認に向かっている。ついに頭にきて「代表に口を出すなと言われたら、どうぞお好きにやってくださいということになる。そんなこと言われて代表のポジションにしがみつくような人生哲学は持っていない」と、お得意のたんかを切るに至った。記者会見でも議員団を「与党ぼけ」と、とんちんかんな批判をする始末。かねてから橋下の一貫した政治手法は、あらゆる事象を利用して“しゃしゃり出る”というテレビタレント型である。先の桜宮高校の体罰・自殺問題でも、過激な発言を繰り返し、入試の中止や廃校の可能性にまで言及して、心ある人々のひんしゅくを買った。教育の場を一挙に我田引水のアピールの場に変えてしまうのである。日銀人事も、小沢鋭仁が陳謝してけりがついたが、不思議なことに共同代表の石原慎太郎(80)や副代表の平沼赳夫(73)は関与しないまま。なぜかというと、二人ともメールが出来ないし、チェックもしないからだ。橋下はそれを知っていて、下っ端だけに怒りをぶつけたことになる。

 国会議員団は白旗を掲げたが、これもだらしがない。結局人事を容認するなら、最後まで突っ張るべきだった。次の選挙でも橋本人気を利用しようという魂胆があるからに違いない。しかし、おそらくその思惑は、無駄に終わるだろう。一連の橋下の行動で出てきた政治能力は、一部民放コメンテーターたちが「天才」と褒めそやすようなものでは全くない。むしろ「狭量」で、「こらえ性」のない性格の露呈である。これでは国政はつかさどれない。橋下流で国際情勢に対処すれば、尖閣問題ではレーダー照射があった途端に、反撃命令を出すようなことになるだろう。政治とは咀嚼(そしゃく)であり、熟成である。橋下の手法は大阪の市長レベルでは通用しても、国政には通用しない。総選挙で維新が取った54議席は、その数ばかりに目が行っているが、詳細に選挙結果を分析すれば、もう既に維新ブームは陰りを見せていたことが明白だ。54議席の内実は、選挙区では当選者は大阪中心であり、全国的には地方区は壊滅状態であった。立候補者と当選者の割合は、自民党が82%当選なのに対して、維新は9.2%にとどまった。大阪以外の当選率はわずかに1.4%だ。

 この結果が予感させるるものは、参院選挙の不振であろう。今回の内紛は起きるべくして起きた。もともと石原や旧太陽系との合流は実体的には政策抜きの“野合”の色彩が濃厚であり、今後国会審議や具体的政策課題が発生するたびに、双頭のヘビは立木に引っかかって動けなくなる様相を呈するだろう。原発一つ取っても、騒動の要因となる。この実態を度々有権者が目の当たりにすれば、再び維新のブームなどは起きえない。まさに自民党副総裁・高村正彦が「多くの国民が橋下氏を野党ぼけと思っている」と、批判したとおりだろう。 
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