国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-03-30 23:35

(連載)イラク戦争10周年とそれがアメリカ外交に及ぼした影響(2)

河村 洋  外交評論家
 イラク戦争を正しく評価するために、湾岸戦争でのサダム侵攻からのクウェート解放以降のアメリカの中東政策を検証する必要がある。ポール・ウォルフォビッツ国防次官補はジョン・ボルトン氏と同様に「ブッシュ・シニア政権がサダム打倒の蜂起を支援しなかったために、イラクではサダム・フセインによる抑圧が長引き、アメリカの道義的な立場を損なった」と論評している。いわば、戦闘死傷者が出ることに過敏になってしまったために地域の混乱が放棄され、現地の情勢は悪化したというのだ。そのため、ウォルフォビッツ氏はオバマ政権のイラク撤退が早過ぎると批判している。

 軍事介入反対派はサダム・フセインが自国民によって政権から追い落とされていただろうと主張するかも知れないが、イギリスのトニー・ブレア元首相は3月19日放映のBBC放送とのインタビューのなかで「イラクの内紛は、国民蜂起によってシリアの内戦よりも凄惨なものになったであろう」と論評している。ブレア氏が軍事介入に肯定的な見解を述べていることは、オバマ政権の非関与政策を評価するうえで、貴重な教訓を与えてくれる。アメリカの同盟国にとって、イラク戦争は対米関係の在り方を考えるうえで、今後の行く末を左右する機会であった。しかし、それも充分ではない。アメリカと行動を共にするに当たり、ブレア氏にはサダム以後の中東へのビジョンがあった。

 その点で、「日本政府にはそうしたビジョンもなく、米英両国の要求に受動的に反応しただけなのではないか」と思わせたのが、朝日新聞が3月20日に行なった福田康夫官房長官(当時)とのインタビューである。福田氏は、イラク戦争の開戦に当たってブッシュ政権が核兵器に関する情報を捏造した可能性にまで口にしている。これはボルトン氏が『ガーディアン』紙への投稿できっぱりと否定していることである。

 米国は情報を捏造したとする主張が、福田氏の個人的な見解なのか、それとも小泉政権の見解なのかは定かではないが、理由が何であれ、福田氏とブレア氏の間には著しい隔たりがあることが見て取れる。福田氏は、明らかに戦争に確信が持てない傍観者として発言しているが、ブレア氏はステークホルダーとして発言している。これは両国の立場の違いを反映している。イギリスはアメリカと特別関係にある普通の国として行動しているのに対し、日本は平和憲法を掲げる非介入主義の国として行動している。よって、イギリスはアメリカの世界秩序に参加しているのに対し、日本はアメリカに安全保障の傘を要請するだけで、受動的に行動しているのだ。ブレア氏は、アメリカと行動を共にするにあたって中東の民主化と紛争予防について語ったのに対し、福田氏は日米同盟の強化を語っただけである。一連のアーミテージ・ナイ・レポートを議論する際には、そのような著しい立場の対照を念頭に置くべきである。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム