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2013-05-10 06:03

対米宣伝工作で安倍は韓国に完敗した

杉浦 正章  政治評論家
 豊富な宣伝工作費を背景に議会やマスコミ対策を進めている韓国の対米外交に日本外交完敗の構図が生まれている。大統領・朴槿恵の訪米は対日けん制で大成功に終わったが、その背景にあるものを考え直さなければ、この敗退は継続する。安倍は対米外交重視を唱えながら、かつて自民党全盛期に行ってきたような対米工作なしに、いきなり歴史認識などで強硬発言を繰り返し、ホワイトハウス、国務省、議会や米主要マスコミ全紙の異例の反発を広げている。自民党も政府ができない部分を補う工作をすべきだが人脈がいない。小選挙区制で外交など票にならないから人材が育たないのだ。このままでは米中韓の対日包囲網ができかねないことを肝に銘じた方がいい。安倍がオバマにそっぽを向かれた記者会見は記憶に新しいところだが、これに対して朴の訪米は下にも置かぬ扱いであった。オバマとの会談では恐らく事前に調整済みであったであろう歴史認識を朴がもちだし、これが公表された。「東北アジア地域の平和のためには、日本が正しい歴史認識を持たなければいけない」と日本を名指しで批判したのだ。5月8日の上下両院合同会議での演説では、「歴史に目をつぶる者は未来を見ることができない」と発言した。明らかに日本を念頭にした発言だが、議場から拍手がわいた。
 
 筆者がかねてから指摘しているように、安倍もできなかった議会演説は活発な韓国の米議会に対するロビー工作の成果であろう。日本は佐藤政権時代に沖縄返還、繊維交渉という重大マターを抱えて政府・自民党一体のロビー工作が展開された。それが年月を経るに連れて下火となり、田中真紀子の愚かなる外交経費削減策や鈴木宗男の経費の使途を巡る攻撃がとどめを刺し、外務省の広報文化予算は10年間で33%も減った。外交官はやる気をなくし、事なかれ主義が横行しているのが現状だ。これに対して韓国は、外交筋によると「議会にもマスコミにもジャブジャブ使っている」という。とりわけ対マスコミ工作が韓国外交官の“使命”となっているという。安倍が発言する度にニューヨークタイムズやワシントンポストの有力記者を「食事しませんか」と誘い出し、日本の理不尽さを訴える。これが急速に米国に台頭している従軍慰安婦問題や歴史認識での対日批判となって現れている側面があるのだ。安倍の「侵略の定義」発言も、「侵略の否定」とばかりに、宣伝工作を行ったようだ。それにしても米紙の安倍批判は異常なほどである。ニューヨークタイムズは1月3日の社説で安倍の右傾化を厳しく批判したが、これに先立ち年末にはオバマ政権が日本政府に対して非公式に、旧日本軍の従軍慰安婦の強制連行を事実上認めた「河野談話」など過去の歴史認識の見直しに関して慎重な対応を求めていたことがリークされている。

 ニューヨークタイムズは明らかに米政府の意図的な個別ブリーフによって社説を書いたに違いない。同紙を“間接外交”に使うことは良くあることだ。とりわけ激しい論調は麻生太郎ら3閣僚と、過去最多の超党派議員による靖国参拝から始まり、米主要紙は安倍袋叩きの様相を示した。ニューヨークタイムズは4月23日、「日本の不必要な国粋主義」と題する社説で靖国参拝について「北朝鮮の核問題を協力して解決すべきときに日本の方から中韓両国の反感をあおったのは著しく無謀な行動だ」と批判した。ワシントンポストも同月27日、安倍が「侵略の定義は国際的に定まっていない」と発言したことについて、「歴史を直視していない」と批判する社説を掲載した。またウォールストリートジャーナルも7日やはりこの発言をとらえて、「韓国および中国当局者は、怒りをもって反応したが、もっともなことだ」と論評した。このように米紙が一致して、「安倍批判、中韓支持」の論調に至ったことは由々しき事態である。日本の主張など全く反映されていないのだ。米議会調査局に至っては報告書で安倍を「侵略の歴史を否定する修正主義者」と断じた。新聞が報ずる度に大使や総領事が抗議したり、反論を投稿したりしているが後の祭りだ。韓国外交官のせせら笑いが目に見えるようである。

 安倍は9日中国共産党機関紙の人民日報が沖縄の領有権は中国にあるとの立場を示唆した論文を掲載したことについて「日本の立場を世界に発信しなくてはいけない」と発言したが、問題はどう発信するかだ。中国の明らかなる対日挑発というか“おちょくり”に対抗して、「世界に発信」する態勢ができているのかと言いたい。沖縄領有論文などは米極東戦略を直撃する発想であり、対米宣伝工作の絶好の材料だ。また戦後いかに日本が中国と韓国の経済成長に貢献してきたかなど主張すべき材料は山ほどある。韓国の「恨みの文化」を反映した執拗な民族性が、政権が代わる度に歴史認識を繰り返し、70年たってもまだおさまらない現実をどう訴えるかも重要だ。軍律が世界一厳しい日本の軍隊が売春婦の強制連行することなどあり得ない。トラックで売春業者が女を満載して、転戦する部隊を追いかけ回したのが実情だ。対米宣伝戦に政府・与党挙げて取り組むときだ。安倍は侵略の定義について8日も「学界的に明確に定義がなされたかについては、そうではない」と発言して、全く撤回する気のないことを明らかにしたが、それはそれでよい。しかし米国のマスコミに丁寧に説明しなくてはならない。ここは大幅な予算の投入、官邸機密費や人材の投入も含めて、対米宣伝策を根底から練り直すときだ。
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