国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-05-30 09:25

(連載)集団的自衛権問題は改憲なしに解決可能く(2)

桜井 宏之  軍事問題研究会代表
 もう一つの誤解は「我が国が集団的自衛権を行使できないと、日米共同対処に支障が生じる」という誤解です。集団的自衛権の行使が容認されなければ、我が自衛隊は日本防衛に当たる米軍と共同して危機に対処できず、その結果、日米防衛協力に亀裂が生ずるという誤解です。

 もしそのように考えているのであれば、そうした心配は杞憂です。個別的自衛権に基づいて自衛隊が米軍と共同対処することは、現行憲法上でも可能です。そのロジックについて小田村四郎・元防衛庁経理局長は『防衛法研究』(防衛法学会編)第14号(1990年10月)に発表した論文「憲法と集団的自衛権」のなかで、次のように説明しています。自衛権が発動された後、侵略国と戦争状態に発展した場合には、一国の存亡に係ることであるから、敵の戦力は一兵でもこれを撃碎しなければならない。「見敵必殺」が武力戦の常道である。単独作戦によるか、同盟国との共同作戦によるかは問うところではない。共同作戦に限って集団的自衛権の概念を使用しなければその作戦を正当化できない、などということはあり得ない。以上の理由から、日本有事に限れば、個別的自衛権が行使できるので、集団的自衛権を行使できなくとも問題は生じないわけです。

 また日本有事でなくとも、現時点において発生が危惧される朝鮮半島有事や台湾有事の場合でも、米軍は日本を策源地として使用するので、日本(特に在日米軍基地)は間違いなく敵の攻撃対象となります。従って日本は個別的自衛権を行使せざるを得ず、必然的に日米共同対処が可能となります。逆に集団的自衛権を行使しなければならない日米共同対処とは、いかなる紛争様相となるのか。およそ想像することは困難です。

 なお集団的自衛権の行使が認められたとしても、これは同盟国のために無条件の行使が義務付けられるものではありません。当たり前のことですが、集団的自衛権を行使するに当たっては、各国は自らの判断の上で行使するか否かを決定します。この当たり前のことを教えてくれるのが、韓国で発生した天安沈没事件(2010年3月26日)や延坪島砲撃事件(2010年11月23日)です。いずれの事件でも在韓米軍は何の軍事行動も起こしていませんし、それに対して韓国内から不満の声が出たとは聞きません。このように集団的自衛権を認める国同士の同盟であっても、相手のためにいざ軍事力を行使するかどうかの判断は、非情であるということです。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム