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2013-06-09 05:46

(連載)シリア問題と米ロ会談(2)

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 アラブ連盟やフランスがシリア国民の正当な代表と認めている反体制勢力の統一組織「シリア国民連合」の一部から、今回も米露の声明に対して不満の声が出ている。また、これまで国際社会は「シリアの友人会合」を重ねて開催し、反体制勢力を支援してきた。こうしたことに鑑みれば、昨年のジュネーブ合意への回帰では、シリア問題を解決することは難しいだろう。特に、昨年6月同様、バッシャール・アサド氏の退陣のタイミング問題が曖昧なままである、選挙を実施するにしても難民が帰還できるのか、有権者登録や選挙区割りなどの民主化の手続きをどのように進めるのか、といった早期には解決できない問題がある。

 何よりも、現在、シリア問題に関して、同国内での(1)化学兵器使用問題、(2)イスラエルによるシリア領への空爆、そして(3)レバノンにおける親シリア派と反シリア派の戦闘、(4)ヒズボラのナスラッラー指導者のゴラン高原解放発言(5月9日)、(5)ヨルダン、トルコ、レバノンでのシリア難民の影響の増大など、さまざまな情勢の悪化が起きている。この状況を、単なる「回帰」で切り抜けることはできない。ここで注目したい点は、シリアと周辺諸国の間に「緩衝地帯」を設置するという動きである。トルコはシリア領からの砲撃を受けており、緩衝地帯構想を主張してきた。またヨルダンについては、今年4月に米軍の派遣が公表され、緩衝地帯設置計画が報道で流れている。「緩衝地帯」が設置されれば、短期的には周辺諸国への難民流入を止め、治安・経済の安定に資することになるだろう。さらに、仮にシリア領内に設置することができれば、同国内にアサド政権の統治が及ばない地域ができることになり、そこに反体制派の拠点がつくられることになるだろう。

 加えて、イラクでかつて米英が飛行禁止空域を設けたように、NATOによる空域管理がともなうことも考えられる(ロシアはシリアへの地対空ミサイルS3000の輸出中止を条件にこれを阻止する構え)。また、緩衝地帯の難民を加えたかたちでの選挙で、シリア国民に将来の選択をしてもらうことも可能となる。問題は、バッシャール・アサド氏が移行体制に入らないという状況をつくることができるか、また、仮につくることができたとして、現在の権力を実質的に手放すかどうかである。そのためのひとつの手立てとして、「化学兵器使用問題の追及」をカードとして、緩衝地帯や飛行禁止空域設置などを政治的交渉で勝ち取ることがあるだろう。

 このように見ていくと、限定された地域の紛争では、勢力均衡による平和構築は難しいと言えるだろう。むしろ、対立する人々の「死への恐怖」を双方からバランスよく取り除いていくことに対して、国際協調をつくりあげていくことを優先すべきだろう。その意味で、イギリスのキャメロン首相のロシア訪問(5月10日)、米国訪問(同月13日)、そして5月末の国際会議を前にしての周辺国の動き、6月の先進国首脳会議、というシリアをめぐる外交が注目される。(おわり)
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