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2013-07-05 18:19

(連載)野中氏の屈折した国家観(1)

袴田 茂樹  JFIR 「対露政策を考える会」座長
 6月初めに訪中した元官房長官、元自民党幹事長の野中広務氏が、中国に対するわが国の基本的な立場を否定して、「尖閣問題に関する棚上げ合意はあった」と発言した。さらに中国電子台の尖閣に関する質問に答えて「こんな不幸な事件が起き、日本人として恥ずかしく、中国の皆さんに大変申し訳ない」と述べたと報じられている。棚上げ発言に関しては、菅官房長官も岸田外相も「事実に反する」と否定した。

 この場合「棚上げ」とは、日中間の領土問題の存在を認めた上で、その解決は将来に委ねることを意味する。日本側は領土問題の存在を認めた事実はないので、「棚上げ」の合意を否定しているのだ。これまでの田中角栄首相や福田赳夫首相、園田直外相などと周恩来や鄧小平などとの尖閣に関するやりとりの記録をフォローしてみると、日本側の態度は尖閣については「話さない」、「特に持ち出さない」、「今のままでいい」あるいはコメントしないという態度に徹している。これは領土問題の存在を認めた上で、その「棚上げ」に同意したということとは、まったく別である。

 野中発言の問題点は2つある。第1は、証拠となるものを何も挙げていないことだ。野中氏がそのような発言を「聞いた」と言っても、「証拠がない」となれば、それは意図的な政治的発言とまったく区別できない。野中氏は自ら会談の席にいたのではなく、田中角栄元首相から「日中間の領有権を棚上げする合意があると聞いた」と、伝聞の形で述べているにすぎない。しかも、彼は当時京都府議で、首相から外交上の機微について詳しい話を聞く立場にあったかは、疑問だ。何年か後に聞いたのであれば、その正確さも疑問となる。

 公明党などが「あくまで野中さん個人の経験で話しているわけで、その事実を確かめる方法もない」と述べるのも、当然である。とくにこの場合の「棚上げ」が、単に「話し合いのテーマにしない」というだけでなく、「領土問題の存在は認めた上で」ということが前提となる。この解釈が微妙なだけに、野中氏が40年前にその微妙なニュアンスをはたして正確に理解していたのか、そのことも大いに疑問だ。したがって彼の「証言」は歴史的事実というにはほど遠く、政治的には無意味である。(つづく)
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