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2013-07-06 11:15

(連載)野中氏の屈折した国家観(2)

袴田 茂樹  JFIR 「対露政策を考える会」座長
 第2は、野中氏の心理や意識にも関わることだが、彼の国家観のあり方である。ロシア研究者として私がそれを問題にせざるを得ないのは、彼が自民党幹事長のときに日露関係に関して、国家観そのものを疑わせる衝撃的発言をし、日露関係に致命的打撃を与えたからだ。2000年7月27日、大統領になって間もないプーチン大統領が訪日する直前、自民党幹事長だった野中氏は「北方領土問題と平和条約を切り離してもよい」と解される発言をした。わが国の長年の領土交渉や国民の返還運動を土台から爆破する発言だ。まともな国家観、主権認識をもつ政治家なら、間違っても言うはずのないことである。ロシア側はこの発言に飛びつき、翌日『コメルサント』紙は、「野中氏にとって、ロシアとの平和はクリルより重要」、つまり国家主権を犠牲にしても友好を優先すると報じた。愕然とした私はある新聞に、野中氏宛の公開質問状を載せた。東京宣言で両国が合意した「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」というわが国の基本的立場を否定するものではないか、と。これに対しては、返答はなかった。

 このときは、野中氏を擁護するわが国の一部の政治家や外務官僚たちの発言もあり、プーチンは日本が領土問題で態度を変えたと誤解した。この状況の下で、2000年9月の日露首脳会談において、プーチンは日ソ共同宣言の有効性を認めた。その時プーチンは、日本側は譲歩し「2島引き渡しで最終決着」というロシアの立場に限りなく近づいた、と誤解したのだ。そしてこのことが、今日に至るまで北方領土交渉に深刻なダメージを与えている。

 北朝鮮に関しても、野中氏は1999年12月に平壌の金日成記念館を訪問し、「金日成主席閣下の不滅の遺徳が、朝鮮民主主義人民共和国の永遠の発展と日本国との友好発展の上に、大いなるお導きを願い、永久不変万年長寿をお祈りいたします」と述べている(1999年12月3日付読売新聞)。その後の彼の発言も、日本と北朝鮮の対立に関しては、北朝鮮ではなく、むしろ日本を批判するトーンが強い。

 野中氏のこれまでのロシア、中国、北朝鮮に関する発言や態度を見ると、彼は日本の政権の中枢に立ちながらも、わが国家に対して、意識的か潜在意識的か、何か屈折した気持ちを抱いているのではないかと感じることがある。そして、彼が中国観や北朝鮮観では考えが近い社会党などの野党ではなく、与党に入って、政権の中枢を目指したのも、もしかしたらその屈折した心理が無意識的にせよ関係しているからなのかもしれない、といった疑問さえも抱かせるのだ。(おわり)
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