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2013-07-22 12:15

(連載)慎重なアジア外交と安全保障力の強化を(1)

鍋嶋 敬三  評論家
 参院選挙で与党が大勝、「ねじれ国会」の解消で安倍晋三内閣は積極的な外交、安全保障政策を進める政治的基盤を強化した。首脳会談が開けず閉塞状況にある対中国、韓国外交の打開は可能か。安倍首相が目指すべきは慎重なアジア外交と安全保障・防衛力の強化である。68年目の8月15日が巡って来る。「歴史問題」で中韓はじめアジア諸国が選挙で国民の信任を得た安倍首相の出方をうかがっている。同盟国の米国は日本にアジアで波風を起こしてもらいたくないのが本音である。外交は独り相撲ではない。相手があってのことだ。対外的配慮は重要な要素である。

 中国におもねる政界人が与野党を通じていまだに後を絶たないが、かつて松村謙三氏や古井喜實(よしみ)氏のような気骨のある政治家がいた。自民党内で「国賊」扱いされながらも日中国交に向けて尽力し、毛沢東時代の中国共産党政権の中枢も耳を傾けるような「サムライ」が絶えて久しい。いま、中韓両国とも太平洋戦争当時生まれていない世代が政権を握り「歴史」を対日外交の金科玉条に自らの政治的保身を図ることに汲々(きゅうきゅう)としている。国家主権、国民の安全を守ると宣言する安倍首相の登場を「日本の右傾化」ととらえるのは民主政治が定着した日本の現実にあえて目をつぶり、左の色眼鏡で見る習性が「反日教育」の中で染みついたせいだろう。それだけに中国や韓国に対しては、新たな反日の口実を与えないよう冷静な政治的振る舞いが安倍政権には求められる。

 米国も歴史問題では日本びいきではない。連邦議会や州議会に従軍慰安婦問題などでしばしば反日的決議案が出されるのは、中国や韓国系有権者の政治力を議員が無視できないからだ。彼らの政治力は祖国の経済力の伸長と対米影響力の増大、民族感情の高揚に伴って大きくなっている現実を無視してはならない。日本政府が歴史問題で不用意な対処をすれば、中国や韓国・北朝鮮はそれを対日外交の武器に使う。このような事態は米国にとっても利益にならず、同盟国とはいえ日本に対する厳しい視線が一層強まる結果を招く。そのような状態を放置すれば、尖閣諸島を巡って米国が日本支持の姿勢をどこまで貫くか保証の限りではない。中国は早ければ2025年には国民総生産(GDP)で米国を抜いて世界一の経済大国にのし上がる勢いだ。中国は米国債の最大の保有国であり、米国の対中輸出は2009年以来倍増、中国の影響力は強まる一方である。

 米国の対中政策の基本は(1)協調と競争、(2)実質的な対話の継続、である。7月10,11日の米中戦略・経済対話では91項目の広範な協力テーマが取り上げられ、2国間投資協定の交渉開始で合意したことは米中関係の広がりを示す。しかし、基本的な問題での対立は厳しいままだ。会議後の記者会見でバーンズ国務副長官は海洋安全保障、サイバー攻撃や人権問題で鋭く批判、スノーデン事件は「米中首脳会談(6月)の精神に合致しない」と言い切った。中国側代表の楊国務委員は「新しい形の大国関係の構築」を3回も口にし米国と対等の大国として印象付けたい思惑がありありだった。しかし人権問題では米国に「内政干渉するな」と反撃、米中間の溝の深さを見せつけた。(つづく)
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