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2013-08-01 10:12

(連載)東郷・パノフ共同論文に重大な問題あり(2)

袴田 茂樹  「対露政策を考える会」座長
 日本の首相や外相は、対露交渉の基本方針としては一貫してこのニュートラルな立場に立っている。なお、日本政府は「もし四島の日本の主権が認められるなら、返還の時期と様態は柔軟に考える」と述べているが、これは仮定形で述べられている希望であって、条件ではない。

 ここでは2つのことが混同されている。つまり、四島が日本領であるという北方領土問題に関するわが国の原則的な立場と、平和条約交渉(北方領土交渉)に関する日本政府のニュートラルな基本方針が混同されているのである。これは、この共同論文だけでなく、両国の専門家や政治家に広く見られる誤解である。つまり、日本がイルクーツク提案を受け入れず、四島の日本への帰属に固執し、ロシアが二島引き渡しで最終決着という立場に固執しているので、平和条約交渉がデッドロックに乗り上げた、という論は間違いなのである。

 歴史的事実としては、イルクーツク合意を基にして日本側は1956年の日ソ共同宣言に基づく歯舞・色丹の返還交渉と東京宣言に基づく国後・択捉の主権交渉の並行協議案を提案した。しかしこれを拒否したのはロシア側である。したがって、2013年4月29日のモスクワにおける日露首脳会談で安倍首相は日露の交渉の基礎としてイルクーツク合意に言及したが、プーチン大統領はまったく無視した。

 共同論文は「交渉の出発点となる立場を双方ともに明らかにしていない」としているが、日本政府は交渉の出発点がプーチン大統領も認めた日ソ共同宣言と東京宣言の立場であることを、あらゆる場面で常に明らかにしている。さらに、共同論文は「一つの方向性として、以下のようなものがあり得ると考える。両国は1956年の日ソ共同宣言に従って交渉を始めることで合意する。共同宣言の第9項には、平和条約締結後に歯舞、色丹二島を日本に引き渡すことが定められていることを想起したい」としているが、この提案でも国後、択捉の帰属交渉(日本への帰属交渉ではない)に両国が合意したことは無視されている。(おわり)
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