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2013-08-20 11:12

(連載)「被爆国日本」の対イラン外交(2)

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 イランではロウハニ師が新大統領に就任したことで核開発問題の交渉の進展が期待されている。しかし、8月5日付ウォールストリートジャーナルは、イラン西部のアラクに建設中の重水炉施設で来年夏までに核爆弾用のプルトニウムが抽出できると欧米諸国が分析していると報じた。また、米国のシンクタンク「科学国際安全保障研究所」(ISIS)は8月4日、イランが現在有している高濃縮ウラン(20%)324㎏で、最短1ヶ月で原子爆弾1個を製造できるとの報告を発表している(1個を製造するためには濃縮20%であれば250㎏が必要)。

 一方、ロウハニ大統領は、過酷な経済制裁を解除するために「見識と理性による外交」を提唱し、ハーメネイ最高指導者からの賛同も得ている。被爆国である日本の対イラン政策として考えられることは、知日家であるロウハニ大統領に、核開発に関する情報の開示を行い、透明性を高め、国際社会と信頼を醸成するよう助言することだろう。また、核兵器の保有を望むイラン国内の保守的強硬派に対して、イラン市民が強い意思を示せるよう、広島、長崎の被爆体験を多元的に伝えることを目的とした文化交流事業を実施することも一つだろう。それにより、イランの政治指導者たちが、核兵器保有をはじめとする武力による勢力均衡ではなく、「国際協調」へと意識を向ける可能性も生まれる。その先に、ロウハニ大統領が湾岸地域の新国際秩序形成に参画し、中東の紛争地の1つに平和がもたらされる道が見えてくるかもしれない。

 かつて、日本政府が対米配慮の外交を展開する中で、対イラン政策が日米対立の前線となったことがある。その反面、米国とイランのパイプ役として日本外交が機能したこともある。それは、日本が独自のエネルギーの安全保障政策として対イラン外交を堅持したことで、同国との信頼関係が構築された時代であった。

 今日、日本政府は国際平和の観点から、唯一の被爆国という原点に立ち返り、「人類はいかなる状況においても核兵器を使うべきでない」「二度と、世界の誰にも被爆の経験をさせない」という立場で、国際社会とイランの仲介役を果たすべきではないだろうか。そうした外交を、次世代を担うこどもたちに示すことが今の大人たちの責務ではないだろうか。(おわり)
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