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2013-09-10 06:47

北東アジアに、「五輪デタント」の好機到来

杉浦 正章  政治評論家
 2020年東京オリンピックが北東アジア情勢にいかなる影響をもたらすかだが、日中にせよ日韓にせよ一種の“緩衝材”的な役割を果たす可能性が大きい。北朝鮮に対しても活用できる。これを奇貨として、安倍は「五輪デタント(緊張緩和)」を目指して、北東アジアの政治情勢改善へのイニシアチブを発揮すべきである。スポーツの祭典を前にして、中国が尖閣への軍事攻勢を強めれば、アフガニスタン侵攻でモスクワオリンピックがボイコットを受けたのとは“真逆(まぎゃく)”に、世界中から「オリンピック妨害」の総スカンを食らい、孤立することは必至である。ここは少なくとも開催までの7年間のデタントが共通の利益になり得る。五輪を北東アジア“共栄”への礎とすべきであろう。オリンピック東京開催で中国と韓国の代表紙の社説をつぶさに検証したが、まず東京開催そのものについては、両紙とも歓迎している。中国共産党機関紙で『人民日報』傘下の国際情報紙『環球時報』が「われわれはここに日本人に祝意を表するとともに、彼らが今後7年間で順調に準備を進め、五輪を成功させることを祈りたい」と祝意を表明。「日本での五輪開催は、中国人にとって地理的なメリットもある。テレビ中継を見るにも時差はほとんどないし、現地に観戦に行くにも都合がいい」と歓迎している。韓国の『中央日報』紙も「東京の五輪招致を祝い、開催の成功を祈る」と歓迎の意を表明した。『中央日報』紙はこれまで「放射能問題の安全より五輪招致が重要なのか」と題する社説を掲載し、「期限内に汚染水問題を解決できなければ、五輪招致を自主的に放棄するという覚悟を示せ」と、韓国政府と歩調を合わせて招致妨害工作の一端をになってきたが、手のひらを返した。

 しかし、東京招致を受けた安倍政権の今後の路線については、正反対の分析を展開している。『環球時報』は「今後7年間日本はおそらく少し温和になり、それほど居丈高でなくなるだろう」と予想している。これに対して『中央日報』は「国内の一部からは、安倍政権の右傾化が五輪招致を契機に加速するという懸念が提起されている」と分析している。両紙の主張でもっとも注目すべき点は、『環球時報』が「常識的に考えて、日本は五輪開催まで中国との軍事摩擦を回避し、東中国海(東シナ海)の平和と安定を維持する必要がある」と主張していることである。加えて、歴史認識問題に言及し、「日本政府が今後数年間に靖国神社問題で再びごたごた動いた場合、中韓は五輪への国際世論の特殊な関心を利用して、第2次大戦の戦犯に政府が頭を下げる国が平和を発揚する五輪を開催するのに一体適しているのだろうか、と世界中の人々に問うことができる」と“どう喝”している。中韓共同戦線で「反東京五輪プロパガンダ」を展開するという姿勢だ。『中央日報』も「 日本は歴史認識・領土などの問題で周辺国との葛藤・緊張を高める措置を自制しなければならない。局地的な紛争でもあれば、五輪の雰囲気に冷や水を浴びせる」と類似のけん制を展開している。

 両紙とも尖閣諸島と竹島問題を念頭に置いているのであろう。いずれも主張は、唯我独尊的である。尖閣諸島の領海内に公船をたびたび立ち入らせ、大統領がこれ見よがしに竹島に上陸して挑発行為を繰り返す、という自らの対日強硬策を棚上げしている。しかし、両紙とも、共通して言えることは、極東でオリンピックが開催されること自体は歓迎なのである。反対すれば国民感情から浮き上がる側面があるのかも知れない。今後の日本外交にとってのポイントはここにある。尖閣については、筆者は「先送り」しかないとたびたび主張している。次世代までの先送りが望ましいが、ここは少なくとも五輪までの7年間の先送りを意識すべきだ。日中両国とも東京オリンピックへの世界の期待を裏切るわけにはいくまい。ソ連によるアフガニスタン侵攻が1980年のモスクワ・オリンピックボイコットにつながったことを忘れてはならない。戦争や紛争は五輪を台無しにする。極東に刺さったとげである尖閣の取り扱いは、東京開催で国際社会が絡む問題となったのだ。

 『環球時報』も『中央日報』も、日本が紛争を起こすかのような論調だが、全く逆だ。習近平も朴槿恵も国内の不満のはけ口を日本に向けるという安易な政治姿勢を取り続けると、災いは必ず自らに降りかかることを肝に銘ずるべきだ。安倍も改憲や集団的自衛権問題、敵基地攻撃能力確保は自らの信念に従って推進して行けばよい。いずれも基本的には国内問題であり、中韓が内政干渉するべき問題でもない。また、自らの姿勢を棚上げにして「右傾化」と批判することは、全く当たらない。しかし、首相による靖国参拝は、誤解を生ずるだけであり、思いとどまるべきだ。東京オリンピックは、天の配剤というべきか、極東に新たなそして共通の価値観が必要とする状況をもたらしたのだ。安倍はこのチャンスを見逃すべきではない。オリンピックの成功は、中国、韓国との経済関係好転も重要なポイントとなる側面が大きい。中韓両国にとっても観光事業などでプラスとなることは必至だ。『環球時報』が「もし日本がオリンピックで“第2の台頭”果たせれば、東アジア地域の経済全体に新たな活性化をもたらし、国家間の協力を刺激することになる。中国への脅威にはならない」と指摘している通りである。オリンピックは“共存共栄”を果たすチャンスとして、フル活用すべきである。まかり間違っても逆コースをたどってはならない。
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