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2013-09-27 21:19

(連載)議論が深まらない「保護する責任」(1)

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 国際社会や米国社会では、オバマ米大統領はシリア化学兵器使用疑惑問題で一体何を問いかけているのだろうと思う人もいるだろう。そうした疑問がわくのもうなずける。オバマ政権のこれまでの説明では、「人間の尊厳」を訴える一方、化学兵器拡散が及ぼす安全保障上の脅威も説いている。そのことで、聞き手には、対シリア軍事介入の目的が、「保護する責任」に基づくシリア市民の人道保護なのか、化学兵器拡散防止の安全保障措置なのか、理解できないのである。

 政策立案において多くの賛同を得ようとするとき、このような手法はしばしば用いられており、今回のオバマ政権の政策が特殊事例というわけではない。そうではあるが、今回の政策形成のあり方について、は批判がある。たとえば、マサチューセッツ大学のチャーリ・カーペンター(Charli Carpenter)准教授(政治学)が次のような指摘を行っている(Foreign Affairs, August 29, 2013)。カーペンターは、介入について、国際規範を支え守るという目的と民間人を政府の残虐行為から守るという目的では、必要とされる介入の方法が異なると述べている。また、それに基づく法的根拠の違いについても指摘している。まず前者、国際規範を破って化学兵器を使用した者に懲罰を科すという観点での介入行動は、(1)誰が化学兵器を使用したかを確認し、(2)公式にその行為を非難し、(3)合法的にペナルティを課す(武器禁輸、経済制裁など)という手順が必要になると述べている。

 そして後者の「保護する責任」という原則に基づく介入行動では、(1)市民の殺戮がどのような兵器を用いて行われたか、(2)どれくらいの民間人が犠牲になったか、(3)保護する責任を果たす適切な根拠があるか、の検証が必要であり、さらに(1)国際社会の同意、(2)国際法が認める範囲内、(3)可能な限り民間人を保護する方法という行動規制があるとしている。その上で、「保護する責任」では、懲罰的介入と異なり、紛争を終わらせる交渉の開始や兵力引き離しの平和構築の部隊の派遣などに結びつく長期的なコミットメントが必要だと述べている。

 こうしたことから、同氏は今回のオバマ政権の介入手段としての「空爆」には問題があり、反対だと結論付けている。空爆については、同氏の他にも、(1)限定攻撃で達成できることは少なく、シリア情勢を悪化させる、(2)周辺諸国を巻き込み地域紛争に拡大する恐れがある、などの指摘がある。これらの意見を踏まえると、米国議会のみならず、多くの人は武力介入を疑問視するだろう。(つづく)
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