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2013-11-21 11:34

(連載)オバマ大統領ではアメリカは分裂する(2)

河村 洋  外交評論家
 憲法の理念を重視する人達は建国の理念に忠実で、しかも非常に愛国心が強く、アメリカそのものに肯定的である。確かにネオコンサーバティブとは違い、彼らはアメリカが世界の警察官であることに否定的である。彼らがシリアでの戦争に反対したのは予算のためではなく、反政府勢力にまぎれるアル・カイダを支援するようになることを懸念するためである。アメリカの本土が安全である限り彼らは孤立主義であるかもしれないが、9・11のようにパール・ハーバーを想起させる事件が起これば彼らは憲法の理念を掲げる祖国アメリカを守るために積極介入主義になる。

 こうした観点から、グラスルーツ保守派の間でのイスラムへの恐怖感はきわめて重要である。こうした感情を示す典型的な事例は、ニーナ・ダブルリ氏が2014年のミス・アメリカに選出されたことへの大衆の反応である。ダブルリ氏はインド系アメリカ人では初の優勝者であるが、ツイッターには数多くの中傷が寄せられた。例を挙げると「アル・カイダおめでとう。我らのミス・アメリカは君達の仲間だ」、「ミス・アメリカじゃなくてミス・テロリストだろ」などである。

 インドがテロとの戦いでアメリカの重要な同盟国だという事実を踏まえれば、こうしたツイートは無知と俗悪な人種差別を示すものである。さらに中世にインドを支配したイスラム諸王朝ではヒンドゥー教を無慈悲に弾圧した非常に過激派の支配者もあり、仏教に至っては絶滅に追い込まれている。しかしそうした無知と俗悪は高尚な学術論文よりも大衆の感情を生々しく描き出すことを強調したい。メディアと専門家はイラクとアフガニスタンでの戦争の長期化による厭戦気運を語るが、シリアでのイスラム過激派支援につながりかねない行為への反対の声にはあまり目を向けていない。しかし、オバマ氏への中傷はそうした感情と深く関わっている。

 オバマ氏は自身の内政および外交政策への大衆の反感に対処できていない。彼の身内の民主党からもオバマ氏への不満の声が出ている。マイケル・ベネット上院議員やジェフ・マークレー上院議員ら15人の上院議員は「オバマ・ケア論争による政治的な行き詰まりがそのままでは、自分たちは2014年の選挙を戦えない」として不満を述べている。11月12日に公表されたキニピアック大学の世論調査によれば、オバマ氏の支持率は39%まで落ち込み、就任以来最低の数字である。『ナショナル・ジャーナル』誌のアレックス・ロアーティー記者は11月12日付けの論説で「再選を目指さない大統領が支持率の落ち込みから立ち直った事例はない」と指摘する。(つづく)
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