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2014-03-14 17:21

(連載1)ウクライナ問題と国際社会

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 ロシアのプーチン大統領はウクライナでの体制変革の正当性を否定し、ロシア系住民の保護と国益を守るという理由で、ウクライナのクリミア自治共和国への介入を行った。ロシアは国連安保理において、この対外行動は「ヤヌコビッチ・ウクライナ大統領」の要請に応えたものだと説明している。また、クリミア自治共和国の議会は3月6日、ロシアへの帰属を決議し、3月16日には住民投票を行うこととなった。これを受け、ロシアも国家安全保障会議で帰属受入れの方針を確認している。今回のロシアのクリミア介入の影響で、3月3日の国際金融市場は株安、新興国の国債安となった。ロシアの株と国債も下落し、ルーブルの対ドル価格は大幅安となった。そして3月6日には、米国が対ロシア経済制裁(ビザの発給制限、ウクライナへの介入に関係する人物の米国への渡航禁止と米国内の資産凍結)を発動した。EUも首脳会議で、外交が進展しない場合、米国同様の経済制裁を検討することとしている。

 プラグマティックな政治家と呼ばれるプーチン大統領が、これらのデメリットを考慮せずに対外行動を選択したとは考えにくく、国際批判を浴びてでも得たいものがあったと考えるべきだろう。それは、2015年に予定されているユーラシア連合を成功裏に結成させることではないだろうか。このロシアの対外行動にいち早く対応した1人が、国内外で外交手腕が高く評価されているトルコのダウトオール外相であった。以下では、ソ連のアフガニスタン侵攻なども参考に、ウクライナ情勢から見えた国際社会の動向について考えてみる。

 ロシア軍がクリミア自治共和国に入り、シンフェローポリ国際空港を確保したとの一報を、ダウトオール外相が受けたのはブルガリアを公式訪問中のことであった。トルコのHurriyet紙によると、3月1日にはダウトオール外相は予定を変更し、ウクライナの首都キエフを訪問、トゥルチノフ大統領代行、ヤシェニュク首相と会談した。さらに、クリミア・タタール民族大会の元議長であるクルムオール国会議員とも協議を行っている。そして、ダウトオール外相は記者会見で、ウクライナの領土の一体性とクリミアのタタール人が平穏な生活を送る権利があることを強調した。なお、クリミア・タタール人はスンニー派ムスリムで言語はチュルク語で、クリミアの人口の12~20%程度を占める。

 その後、同外相は、ケリー米国務長官やシュタインマイヤー・ドイツ外相と電話会談を行っている。こうしたトルコの外交は、クリミアの分離独立やロシアへの帰属を視野に入れたものであろう。それは帝政ロシアの南下政策と向き合ったオスマン帝国時代の歴史に学んだものだといえる。(つづく)
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