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2014-04-03 06:39

日米首脳会談の核は「修正主義路線」の否定

杉浦 正章  政治評論家
 半世紀にわたり東京とワシントンで日米首脳会談を見ていると、「日米首脳会談成功の原則」というものがある。成功させないと日米ともに基本戦略がなり立たず、外向けには成功を強調した発表をするのだ。しかし「真の成功」と「虚の成功」があることが過去の首脳会談をフォローすれば如実に分かる。極東情勢の緊迫は今ほど「真の成功」を必要とするときはない。お決まりの合意である「日米同盟強化」に何が盛り込まれるかだが、中国、北朝鮮の「戦争可能」の誤算を起こさない「強固さ」が必要不可欠であることはいうまでもない。そのためにまず払しょくしなければならないのは、米国内に台頭した「日本軍国主義化」「安倍歴史修正主義」の疑心暗鬼だ。これがある限り会談は「虚の成功」に傾く。

 ワシントンと往来する外交官や政治家が最近口を揃えて指摘するのは、横溢している日本軍国主義化への懸念だ。とりわけ首相・安倍晋三の靖国参拝以降その傾向が強く、元外務省首脳は「過去10年間に一度も生じたことのないような嫌な雰囲気を感ずる」と言う。その原因の一つは、靖国参拝を“活用”した中韓両国による歴史認識プロパガンダに、日本が対応し切れていないことだ。もう一つは、安部側近による極右発言だ。首相補佐官・衛藤晟一が米政府の靖国参拝失望声明に「むしろわれわれのほうが失望だ」とのべれば、内閣官房参与・本田悦朗が米紙に「第2次大戦中の神風特攻隊の『自己犠牲』について語りながら、涙ぐんだ」と報ぜられる。総裁特別補佐・萩生田光一に至っては「共和党政権の時代には、こんな揚げ足取りをしたことはない。民主党政権だから、オバマ政権だから言っている」と言明する。

 日本人が聞いても、根底に反米感情があることを感ずるが、ワシントンには増幅して伝わる。これらの発言の度に官房長官・菅義偉は否定するが、肝心の安倍が「個人の発言」として否定しない。側近だからニュースになるのに「個人の発言」と言う弁明はなり立たない。これに中韓両国がそれ見たことかとばかりに煽るから、安倍政権は歴史修正主義の極右軍国主義集団かということになってしまう。安倍の戦後レジュームの見直し発言もワシントンでは「サンフランシスコ平和条約を離脱して、行き先は戦前なのか」という疑念を生じさせる。日本のナショナリズムが高揚すると反米になる戦前のパターンを想起し、核武装や真珠湾奇襲の悪夢をよみがえらせる。まさに集団的自衛権の容認反対が「左の平和ぼけ」なら、首相側近らの反米発言は「極右の平和ぼけ」にほかならないのだ。ニューヨーク・タイムズは「安倍首相の危険な修正主義」と題する社説を掲げ、AP通信も安倍の国家主義と歴史修正主義に懸念する記事を報じた。首相側近にはこうした事態を掌握出来ず、「今年も靖国参拝する」との見方すら出ているが、今度参拝したら「気が狂った」としか表現のしようがない。自民党は即安倍降ろしにかかるべきであろう。

 もちろん安倍に歴史修正主義の意図は全くないが、獅子身中の「3虫」の発言が中韓両国のプロパガンダとエコーし合って、米国の知日派までが憂慮している事態に至っているのだ。これを放置してはならない。オバマ政権はウクライナ情勢で当面ヨーロッパに傾斜せざるを得ないからこそ、日本重視に動いている。オバマが1泊2日の日程を急きょ2泊3日で国賓待遇を受ける方針に変更したのも、ウクライナ情勢が深く作用している。中ロ軍事同盟すらささやかれる中で、ロシア孤立化のためには極東の要石(かなめいし)である日本の協力が不可欠だし、国賓待遇での天皇による晩餐会は対露、対中けん制のポイントなのだ。米国防総省が4月1日、中国が山東省青島沖で今月下旬に開く国際観艦式への米艦船の参加を見合わせると表明したのも、中国が海上自衛隊に観艦式への招待状を送らず、日本外しに出たことに、同盟国として不快感を示す意図があるのだ。米国の中長期戦略が対中対峙路線にあることは間違いないが、だからといって、同盟国が対中挑発を行って「予期せぬ戦争」に巻き込まれることは、何としてでも回避しなければならないと考えているのだ。

 したがって、オバマ政権の対日重視姿勢を奇貨として、安倍は首脳会談で「安倍修正主義極右政権」の誤解払しょくを演出する必要がある。誤解を放置すれば、日米が将来抜き差しならぬ関係に発展して、中国による歴史認識での日本孤立化のわなにはまる危険がある。従って安倍は首脳会談の場で、日本軍国主義化の疑心暗鬼を解く“演出”をすべきであろう。そのメーセージをワシントンの官僚、有識者に伝えることが、知日派、親日派をつなぎ止める最良の道だ。安倍本人がはっきりと否定することがなによりの宣伝になる。この大局に立った上で、4月23日からの首脳会談は対中けん制の色彩を濃くする必要がある。年末の「日米防衛協力のためのガイドライン」改訂に向けて、その核になる集団的自衛権の容認を改めてオバマに再び確約する必要がある。従って党内、対公明党調整もその前に見通しをつけておくべきであろう。これに加えて、TPP(環太平洋経済連携協定)の成功につなげなければならない。もうそろそろ首相裁断でコメや牛肉・豚肉など農産物重要5項目の関税の取り扱いに方向を出すべき時だ。とりわけ牛肉などで国内対策と合わせた譲歩をしなければ、亀裂ばかりがクローズアップすることになりかねない。
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