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2007-01-07 11:26

連載投稿(1)サダム・フセインの恐怖政治

松元洋  NPO日本救援行動センター(JARC)代表
 1979年以来23年の長期にわたり独裁者としてイラクに君臨したサダム・フセィンは、去る12月30日の未明処刑された。1991年の湾岸戦争の直後から3年間国連職員としてバクダッドに在勤したことのある者として、これでイラク国民は名実ともにサダムの恐怖政治の呪縛から解放されたと感じ入った。

 バクダッドでの勤務内容は二つあった。第一は各国際機関が提出するそれぞれの分野についての援助計画をとりまとめることであり、 第二はイラク全域で働く国際機関とNGO職員の安全を確保することであった。前者については、年間約10億ドルの予算枠のなかで 食料、医療、住宅、教育、給水などの援助計画の立案、予算見積もり、実施等を一旦標準化してしまえば、あとはさほど難しい仕事ではなかった。他方、1千人をこえるインターナシヨナル・スタッフの安全確保は、至難の技であった。方々でサダムの軍隊と反政府分子の対立が火花を散らしていた。またイラク政府が国連とNGOは内政干渉に来ているのでないかと疑い、援助物資輸送のトラックのなかに時限爆弾をしかけたり、また職員が住民から石を投げつけられるという事件が相次ぎ、数名の死傷者も発生し、誠に厄介であった。

 事件が発生すると、私は抗議文を書き、時としては1日に2回も外務省に出向いて局長や次官と談判し、再発防止を訴えた。彼らは、被害者側に住民の反感を招くような言動があったのでないか、事件は政府とは何ら関係がないと主張した。議論が行き詰ると、無言で右手をあげて人差し指を立て、天井に目をやるのであった。こうなると、あとは当時国連本部で国連職員の治安対策を担当していたコヒ・アナン部長に報告し、国連本部の高いレベルからサダムに直訴してもらうしかなかった。

 政府の高官もサダムの独裁ぶりには心をいためていたと思う。小さな声で「国際機関に就職したい」と言い出す者もいた。聞いたころによると、サダムは閣僚会議において、自分に反対する者はただちに、手足の先から一寸刻みで処刑すると警告を発していたという。警察、軍隊、情報機関のトップは、サダムの家族と近親者でかためられていた。大臣であろうと将軍であろうと、サダムの目つきに戦々恐々としていた。(つづく)
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