国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-04-16 22:26

再び砂川判決を考える

角田 勝彦  団体役員、元大使
 報道によれば、5月連休明けにも予定される安保法制懇の報告書提出を受けて、政府は砂川判決(とくに他国防衛に関する自国の義務を明示している田中耕太郎最高裁長官《当時》の補足意見)を引用した「政府方針」を作成し、公明党などの説得に努める方針の由である。「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利」とする法制局型集団的自衛権の行使容認が、憲法解釈上可能であるとあらためて説得しようというのである。

 国際情勢の変化から行使容認が政治的または軍事的に不可欠になったことなどを強調する(たとえば、4月14日付本欄への鍋嶋敬三氏寄稿「同盟強化に欠かせぬ集団的自衛権」)のではなく、従来は空理空論、神学論争と蔑視していた法の面からの説得に力点を置くのなら、結構なことである。4月13日付本欄への船田元氏寄稿「憲法改正に向けての環境、整備される」の進展を踏まえ、憲法改正の中身の議論を行うことにもつながろう。

 砂川判決は、4月10日付拙稿で論じた通り、「国連型集団的自衛権(=同盟締結権)」を認め、 日米安保条約及び駐留米軍を合憲としている。「憲法第9条は、我が国がその平和と安全を維持するために他国に安全保障を求めることを、何ら禁ずるものではない」との明示的判決である。もちろん、日米安保条約は我が国が基地を提供し、米国が我が国を防衛するとの片務条約である。我が国も米国を防衛する義務を負う双務条約ではない。我が国の防衛力の不備は自明の前提だった。法制局型集団的自衛権(要するに「海外出兵権」と呼べよう)は考えられていなかった。田中耕太郎最高裁長官(当時)は、判決補足意見で、判決を「正当」としつつ、自衛はすなわち「他衛」、他衛はすなわち「自衛」という関係があるとして、国際共同体に対する義務が存在することを指摘している。これは国連の集団安全保障体制への参加を示唆したものと考えられる。安保法制懇は、その報告でPKOにも触れる由であるが、これは集団的自衛権、すなわち同盟とは別の問題である。

 海外出兵は憲法第9条という鉄壁の向こう側にある。これを可能とする法律は「一見極めて明白に違憲無効」(砂川判決)として裁判所の司法審査権の対象とされよう。国論の分裂と混乱を賭けて解釈改憲に突き進む愚は避けることを信じたい。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム