国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-05-24 15:52

抑止力抜きでの「集団的自衛権」論議はおかしい

山田 禎介  国際問題ジャーナリスト
 このところの集団的自衛権論議は、根底の集団安全保障体制にあるグローバルな抑止力を忘れた発想の産物としか思えません。つまり何よりも、日本があがめる国際連合、その国連憲章ですら「集団安全保障」を基幹にしており、いま言う集団的自衛権問題は、この国連の唱える集団安全保障による総論「平和のための抑止力」を吹き飛ばした各論部分の仮定論議でしかないようにみえます。戦後世界は、この国連憲章を基盤とする加盟国による集団安全保障体制の抑止効果で、大国同士の衝突という、かつての大戦争を避け、からくも平和を維持してきたのが現実です。

 筆者は、個人的には「憲法は変え得るもの」とみています。さらに多くの平和主義者が日本国憲法を、まるで明治憲法が掲げた「不磨の大典」のように考えることには、疑問を持っています。問題の集団的自衛権の行使については、「保持はするが、行使はできない」とした歴代政権の解釈が妥当なものであり、現政権の解釈変更は、法治国家としては「禁じ手」と思います。つまり自衛権行使には、現憲法の改正が必要です。また、集団的自衛権行使を盛り込むために、現憲法を触ろうというのも、軽率な本末転倒行為にしかみえません。

 なぜ現政権は憲法解釈変更による集団的自衛権行使を持ち出すのでしょうか。それは憲法改正を行おうとしても、大多数の国民の反対で頓挫することが予想されるからではないでしょうか。現代憲法問題での戦後ドイツの実態を記します。当時の西ドイツは、建国とともにまず再軍備を自国の意思で行いました。また建国の際の「ドイツ基本法」は、将来ドイツが「再統一された日」の(正式)憲法誕生を待つ「暫定憲法」とされました。当時の首都の名をもじって”ボン憲法”とも言われたものです。さらに再軍備による西ドイツ軍は全軍、北大西洋条約機構(NATO)軍の一部とされ、ドイツ単独の指揮権は保持できませんでした。近年アフガニスタン紛争でのNATO域外派遣問題では国論が割れる大論争にもなったものです。

 一部識者による「日米安保条約があるからと言って、米国が日本を守ってくれるとは限らない」との懐疑・悲観論もお見受けします。冷静な観察でしょうが、でもそれはないでしょう。米国にとって日本列島とその周辺太平洋は、あくまでもその国益に直結した場です。最近の好例は、かつて米国が保持したフィリピンのスービック、クラークという海空軍基地の再使用です。フィリピン現地を訪れての実感ですが、日本にはない、目を見張るばかりの超巨大軍事施設を、米国は軍事基地を認めないフィリピン憲法に沿うように、シフトを変えて再び運用します。北東アジアのあの大国も、このプレゼンスを無視することはできず、海洋進出にはブレーキがかかるでしょう。いま日本はといえば、国際社会の場で「抑止の現実と平和維持という理想」をあくまで求めていくべきです。最後にドイツは、東西冷戦崩壊後、念願の「再統一」を果たしました。が、それでも暫定憲法たる「基本法」は、新たな憲法に変わることなく、そのままです。それがドイツ国民の総意でした。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム