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2014-05-26 07:01

早期解散回避で、グレーゾーン処理先行か

杉浦 正章  政治評論家
 どうしても首相・安倍晋三の政局運営は解散・総選挙を意識したものにならざるを得ないだろう。早期解散論を唱えているわけではない。早期解散に追い込まれないことを前提として政局の展開を組み立てて行かざるを得ないということである。自民党幹部の中に「秋にはグレーゾーン(武力攻撃に至らない侵害)の関連法案を先行させ、集団的自衛権関連法案の国会審議は来春以降に先送りしよう」と言う声が浮上しているのはそのためでもある。ただし、安倍は閣議決定は早期に断行する方針を維持していると言われ、あくまで集団的自衛権の行使容認と一体処理をして、日米防衛協力の指針(ガイドライン)策定には間に合わせる方針だ。

 自民・公明の与党協議を通じて出始めてきている傾向は、いわゆる個別的自衛権で対処出来るグレーゾーン事態などへの対応では合意へ向けての流れが生じてきていることだ。自民党は同事態への対応は調整を急ぎ、できれば5月27日で議論を終えたいとしている。グレーゾーン事態への対応とは、漁民に偽装した武装集団が尖閣諸島を占拠し、海保では対処しきれないケースなどに、自衛隊が治安出動か海上警備行動をとることである。これは中国が南シナ海で警備艇を出して石油掘削を始めているような事態が発生していることから、一段と現実味を持って類推できることである。東シナ海でこうしたことが起きる前に対処しなければならない喫緊の課題であろう。そのための自衛隊法など関連法案の改正は、少なくとも臨時国会で行う必要がある。しかし、公明党と意見が鋭く対立している集団的自衛権の行使絡みのその他の法案は、公明党との意見調整が行われないまま秋の臨時国会で突っ走れば、世論は「国民に信を問うべき」という論調に変わることが考えられる。読売や産経は安倍を支持しても、朝日、毎日、東京などは解散論を打ち出す可能性が高い。

 既に自民、民主両党から解散論が唱えられ始めている。自民党憲法改正推進本部長・船田元は「国会の議論だけで済ませてよいのか。国民投票の代替案として衆院解散も選択肢の一つだ」と述べた。つまり、改憲なら国民投票が必要となるが、解釈改憲の場合はそれに代わる手段として解散が必要となるというのだ。一方民主党国対委員長の松原仁は「衆院を解散して信を問うくらいの大きなテーマだ。解散に打って出る度胸が与党にあるのか」と問題を投げかけた。こうした解散論はまだごく少数にとどまっており、スジ論の域を出ていない。これについて安保法制懇座長代理の北岡伸一はテレビで「一理ある」と述べている。しかし北岡によると「関連法案を国会に提出して、信を問うことはあり得るが、集団的自衛権の是か否かだけでは、国民はどう選択してよいか分からない」という。集団的自衛権の行使の是非だけでは、解散の焦点が漠然としていて困難だというのだ。

 この見方は確かに学者の見解としてはなり立つが、時の政権が集団的自衛権の行使の是非で信を問おうとすれば不可能なことではあるまい。ただ「秋の臨時国会でそのような解散ムードが台頭することは極力回避したい」というのは安倍の気持ちであろう。293議席という衆院のパイがあってこその安倍政権なのであり、そのパイが衆院単独選挙で維持できるかどうかというと難しい。やはり再来年夏の衆参ダブル選挙を狙うのが本筋だろう。ただ安倍としては既に米、欧、東南アジアの国々に集団的自衛権の行使容認を国際公約として発信しており、ここで腰砕けになるつもりはない。遅くとも秋の臨時国会前までには、集団的自衛権の行使容認を閣議決定に持ち込み、法案を成立させ、その上に立って日米ガイドラインを年末に決定することになろう。

 しかし、秋の臨時国会で集団的自衛権の行使関連法案を突撃してでも通過させる決意まで固めているかどうかは微妙である。なぜなら、強行突破が早期解散論と連動する可能性が高いからだ。マスコミが解散をするわけではないから、安倍としては突っぱねるだけだが、事は自民党政権始まって以来の安保理念の大転換である。新聞に呼応してデモ隊が国会を取り囲み、ささいな問題でも一触即発の流れとなりかねない。その危険性を除去するために丁寧な国民への説得で理解を得る必要があり、そのためには時間が必要になる可能性がある。このため政府自民党内には、公明党との妥協案として秋の臨時国会ではグレーゾーンの処理にとどめ、来年の統一地方選挙で公明党と選挙協力をして勝利を得た上で、来春以降の法案国会提出を図るという構想が出ているのだ。しかし自民党にはグレーゾーン先行論に「公明党に食い逃げされる」として、懸念する声も強く、副総裁・高村正彦らは“一体処理”の方針を崩していない。幹事長・石破茂も「全体で処理し、切り離しはしない」と述べている。「解散論が出ても無視するだけだ」(自民党幹部)との強気の意見も根強い。結局は安倍の高度の政治判断に委ねられることになりそうだ。
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