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2014-06-20 15:27

国際法上の集団的自衛権

角田 勝彦  団体役員、元大使
 集団的自衛権に関する閣議決定への動きが注目を集めているが、問題はその先にある。政府は、6月17日、集団的自衛権の行使を認めるための閣議決定文案の概要を自民、公明両党に正式に提示した。これは高村正彦自民党副総裁が提示した(新)「自衛権発動の三要件」という新しい憲法解釈案を踏襲したものである。日本への武力攻撃に加え、他国に対する武力攻撃でも「わが国の存立が脅かされ」「国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される」おそれがある場合には、自衛権の発動として必要最小限度の武力行使が認められる、という内容である。注目すべきは、対象を限定するとともに、かかる武力行使は「国際法上、集団的自衛権と認定される」との文言が入ったことで、国内法(憲法)上は、個別的自衛権や警察権の行使と解釈できる余地を残そうとしたことである。

 政府と自民党は、公明党の慎重な姿勢に鑑み、目指していた6月22日の今国会会期中の閣議決定は断念したが、安倍晋三首相は、公明党山口郡津男代表と19日会談し、与党協議を国会閉会後も継続する方針を確認した。政府は閣議決定を安倍首相のオーストラリア訪問以前の7月上旬までに行いたいとしている。小野寺防衛相も7月上旬訪米しヘーゲル米国防長官と会談して安全保障体制の見直しについて説明し、年末に再改定を予定する日米防衛協力のための指針(ガイドライン)に反映する方針を確認する予定とされる。安倍首相の強気に押され気味に見えるが、公明党との調整は容易ではない。公明党は閣議決定文案の字句修正を求めているほか、解釈変更に慎重な意見も根強い。逆に自民党内にも文案が自衛権を発動できる事態を限定しすぎているとして、さらなる範囲の拡大を求める意見がある。とくにシーレーンの機雷掃海活動が問題になっている。さらに政府・自民党は、19日、公明党に対し「国連集団安全保障措置に自衛隊が参加しての武力行使、例えば国連決議に基づくシーレーンの機雷掃海」を行える内容を盛り込むよう非公式に提案した。公明党は受け入れにくくなった。 

 閣議決定文案への「国際法上の集団的自衛権」との説明の導入は、筆者がこれまで本欄でも行ってきた「法制局のいう集団的自衛権(自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を自国が直接攻撃されていないにもかかわらず実力をもつて阻止する権利)」と「国連憲章(つまり国際法)上の集団的自衛権」を区別して考えよとの主張に近づいたものであるが、「日本国憲法上は『法制局のいう集団的自衛権』」が行使できない」との従来解釈を変更する説明にはなっていない。国会審議でも邦人輸送の米艦防護の必要性など政治的判断が強調されるばかりだった。高村正彦自民党副総裁などが苦労されていることは判るが、結果はあまりにもずさんである。政府は、新3要件を内閣法制局に示して細かな文言調整をするよう審査を指示し、法制局は実施したと伝えられているが、法制局はサボタージュしているのではないかとさえ疑われる。新3要件の1つに「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがあること」との文言があるが、根拠の1972年の政府見解の結論は「わが憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」となっているのである。

 問題は、政治上行うべきかでなく、憲法上可能かである。明治の大津事件(1891年、訪日中のロシア皇太子暗殺未遂事件で、政府やロシアの圧力に抗し、大審院院長児島惟謙は法を曲げず犯人を死刑にしなかった)の先例を想起するまでもなく、我が国は優れて法治国家である。このまま進めばさまざまな形で違憲訴訟が予見される。「一見極めて明白に違憲無効」(砂川判決)なケースでは、統治行為論は適用されず、司法判断が下されよう。仮に無効判決が下されれば、政府の努力は無駄骨折りになるばかりか、政治的に重大な結果を生みかねない。せっかくシャングリラ会議などで外交上成果を上げているところである。好漢自重すべきであろう。
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