国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-07-17 05:35

岸田はケリーに「釈明」する必要は無い

杉浦 正章  政治評論家
 韓国による対米宣伝が利いたと見えて、米国務長官ケリーが日朝接近におかんむりである。来週急きょ外相・岸田文男が訪米して釈明することになったが、よい機会である。岸田は日米韓の結束を乱しているのは、習近平の手のひらで踊っている大統領・朴槿恵であることを指摘すべきである。とりわけ習・朴会談で日本が行おうとしている集団的自衛権の行使容認に一致して反対した点を取り上げ、朝鮮半島有事が日本の後方支援なしでは絶対になり立たない構図にあることを強調すべきだ。そして、朴の中国への軍事的接近に歯止めをかけるべきである。米国は拉致問題について国務省のサキ報道官が5月の段階で、日本政府から事前に連絡があったことを明らかにしたうえで、「透明性のある方法で拉致問題を解決するため、日本の取り組みを支援していく」と好意的な発言をしていた。外務省が連絡を密にしていた証拠である。

 ところが7月15日になって、さる7日の岸田とケリーの電話会談でケリーが「日本だけが前に出るのは望ましくない。北朝鮮の核やミサイルの問題を巡る日本とアメリカ、韓国、3か国の足並みが乱れかねない」などと懸念を表明したことが明らかになった。ケリーはさらに「日米は同盟国だ。北朝鮮との交渉については透明性をもって、事前にきちんと相談してほしい」「首相が訪朝することを検討する場合についても、事前通告ではなく、相談してほしい」とクギを刺したという。この米側の急変はどう見てもつじつまが合わない。どうも背景には韓国の対米工作、朴得意の「言いつけ外交」があったと見られている。岸田は、「拉致問題の解決は日本の悲願であり、国務省とも連絡を取った上で拉致問題を進展させてきた」ことや、「拉致、核、ミサイル一括解決の方向に変わりがない」ことを説明することになろう。制裁解除も日本独自のものに限られていることを強調する。首相・安倍晋三の訪朝についても未定であることを説明することになろう。

 さらに加えて説明すべき点は、2008年以来中国主導で行われてきた6か国協議が、中朝関係の冷却化で実現が不可能である点を指摘し、拉致問題解決が朝鮮半島の緊張緩和の突破口となり得ることを強調すべきである。さらに加えて最重要の問題は、朴槿恵の対中接近で中国が日米、日米韓分断に成功しつつある点を指摘すべきであろう。とりわけ集団的自衛権行使容認の閣議決定に関して、中韓首脳会談で「一致して憂慮を表明した」と大統領府が発表したことを看過すべきではない。これは経済関係で切っても切れない関係にある中韓が、安保問題での協調に踏み込んだことを意味するからである。中韓は共同軍事演習まで行う予定であると言われ、明らかに北東アジアの安保構造が変化の兆しを見せていることに他ならない。

 北との関係が悪化しているとはいえ、中国が北を見捨てることはあり得ない。中国は国境まで米国の影響が来ることは避ける戦略を基本としている。金正恩もできるできないは別として、核ミサイルの開発で米国をどう喝しつつ、朝鮮半島を北のペースで統一する機会をうかがうのが基本戦略だ。従ってミサイル発射も、核開発もやめないだろう。こうした中で朴が、集団的自衛権の行使という「日米同盟の強化」を批判する限り、韓国は対中軍事接近しか道がなくなることに思いが到らないのだ。集団的自衛権の行使容認を習と一緒になって批判することの危険性が分かっていないのだ。日本は、朝鮮半島有事の際には、決定的に重要な戦略上のポジションを占める。国連軍の後方司令部は座間にあり、米海軍、空軍は日本の基地から発進するしかないのだ。その日本の集団的自衛権の行使を批判するのは、たこが自分の足を食らうのに等しい愚挙なのだ。このような安保構造は朴槿恵の理解能力の範疇(はんちゅう)を越えるのだろう。おそらくケリーもこの構図への深い理解に到っていない可能性がある。言われているように韓国の“工作”に乗って、拉致問題での懸念を表明したとすれば、余りに発言が軽い。岸田は釈明に追われるのではなく、北東アジアにおける米戦略が、朴の対中軍事接近で危機的状況にあることを強調して、米国が対韓圧力を強めるときであることに思い至らしめる必要がある。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム