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2014-10-23 06:43

消費増税「自民党大激論」が幕開け

杉浦 正章  政治評論家
 世の中には道理の分かる者もいるが、分からない者もいることを「目明き千人、盲(めくら)千人」というが、自民党内の消費税を巡る論議は、とりあえず目明き42人対盲70人であった。もともと10月23日に会合を予定していたのは消費増税延期派だが、これに対して悪知恵のはたらく税調会長・野田毅が若手議員を動員して税調を開催、対抗して、気勢を上げた。ようやく最重要政策の消費税問題を巡って自民党らしい雰囲気が出てきた。官房長官・菅義偉は「消費税は、国民に極めて影響力のある問題だ。自民党は国民からさまざまな声を聞いて党内で大激論する政党だ」と述べているが、その大激論の幕開けだ。昔なら総務会で灰皿が飛んだものだが、今回もそこまで行きかねない雲行きだ。しかし、ガス抜きが終われば、最後にはまとまるのが自民党だ。増税派議員も手心出来ずに突出する者が必ず出るが、こういう議員はまず出世しない。首相・安倍晋三が鉛筆舐め舐め通信簿をつけているからだ。悪いことは言わない。若手増税派議員は野田などにだまされていないで、判断を増税延期に切り替えた方がよい。推進派は、幹事長・谷垣禎一、副総裁・高村正彦、野田ら堂々たる党幹部だが、谷垣は安倍の意向で変わる可能性がある。延期派はろくろく名前も知らぬ百姓一揆のような連中だ。しかし、その百姓一揆を陰で支えているのが、何を隠そう官房長官・菅義偉といわれる。

 同日も「本人出席が40人を越えて、真剣な議論を行うことはいいことだ」と述べたが、ちゃんと「本人出席」が何人かを調べている。菅は安倍の意向を受けている。安倍は表向き完全中立を維持しているが、時々本心を吐露するようになった。英経済紙フィナンシャル・タイムズとのインタビューで、「消費税率の10%への引き上げが経済に大きな打撃を与えるなら、無意味になる」と述べたのだ。同紙記者は当然、首相が増税延期の可能性を示唆したと受け取って、そう報じた。野田は「10%に上げない場合のリスクは10倍以上」と脅迫めいた発言をするようになってきたが、果たしてそうか。重要な変化を見逃してはならない。報道ステーションの朝日新聞論説委員・恵村順一郎が大きく延期論にかじを切ったのだ。「超大物野田に対して朝日の論説委員如きの発言を引用するヤツがあるか」と言う読者は読みが浅い。惠村は23日夜「私はこれまで再増税から逃れられないと言ってきたが、足元の景気を見る限り、何が何でも10%に上げなければならないという勇気を持てない」と述べたのだ。惠村はこれまで忠実に朝日の論説の動向を見極めて発言しており、その発言は朝日の編集方針を完璧に踏襲している。発言は論説の内部で延期論が力を占めてきたことを意味するのだ。政局で揺さぶる邪心がある自民党一部幹部や民主党幹事長・枝野幸男などを別にすれば、政局動向と経済動向の双方が読める向きは延期論に傾いている。筆者の感触では、延期派の方が自民党内で多数である気がする。統一地方選や、国政選挙を前にして増税しようとすれば、大平正芳や菅直人のように敗北必至であることくらい陣笠でも分かる。

 なぜ延期論が力を占めてきたかと言えば、紛れもなく景気回復の足踏みにある。10月の月例経済報告は、景気の基調判断を「一部に弱さもみられる」から、「このところ弱さがみられる」に引き下げた。下方修正は2か月連続だ。さらに重要なのは実質賃金の減少だ、厚生労働省の8月の毎月勤労統計調査は、実質賃金指数が前年同月に比べて2.6%減で14か月連続で減少している。消費が戻らない急所はここだ。消費低迷は生産活動を直撃しているのだ。危険なことに、現在の経済状況を過去のケースと比較すれば、1997年の橋本龍太郎による5%への消費増税後と酷似してきた。橋本は消費税増税など総額約10兆円の緊縮財政を行ったが、国内総生産(GDP)は前年度比マイナス2%の503兆円まで約10兆円縮小し、GDPデフレーターはマイナスで0.5%に落ち込んだ。以後長期にわたり深刻なデフレ経済が蔓延する結果を招いた。驚くべきは10月の経済指標がその97年10月の数字よりも悪化しており、ここで消費再増税を断行すれば、アベノミクスは失速し、せっかくのデフレ脱却の気運は消え去る。日本経済は再びデフレ・スパイラルの底知れぬ闇に落ち込んで行くのだ。

 自民党幹部は、口を揃えて「延期すれば世界の市場から財政再建が一段と遠のいたとみられて、財政への信任が失われる」と強調するが、デフレに逆戻りした方がもっと信任が失われることに気が付かない。要するに、財務省の理論構築をおうむ返しに言っているだけだ。しかし聞くところによると、その財務省も極秘裏に1年延期した場合のケーススタディーに着手したという。野田らは日本売りが生ずると懸念するが、不況に戻った方が日本は売られるのだ。日本売りを回避する最大の方策は、引き上げ時期を明示すれば足りるのだ。1年半延期と決定すれば、ハゲタカファンドも日本売りには出ようがない。現に国際世論をみれば、消費再増税に関しては、米国からも慎重論が強まっている。ニューヨークタイムズが社説で慎重論を説いている。米財務長官・ジェイコブ・ルーも10日、日本の再増税延期論を唱えている。要するに、財務省の入れ知恵で自民党幹部は「思考停止」に陥っており、この頑迷固陋(ころう)幹部らを説得するには、安倍の相当強力なリーダーシップが必要となろう。
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