国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-11-02 21:19

(連載1)アメリカ国防の政争化を憂慮する

河村  洋  外交評論家
 西側民主主義諸国が「歴史からの休暇」の最中にあった時、ロシアと中国が冷戦後の平和を破って再登場した。また、中東では宗教過激派の台頭によって国民国家による統治が危うくなっている。さらに北朝鮮やイランのように核拡散に手を染める国も次々に出現している。今日の国際安全保障像は二極対立の時代よりも複雑になっている。NATOウェールズ首脳会議でも見られたように西側同盟諸国は「歴史の終わり」をたやすく信じ込んでいたので、多様化する脅威の台頭に対処しきれていなかった。問題にすべきはアメリカの「衰退」ではなく、整備され切っていないその「国防力」である。

 平和的な世界秩序のためには、崇高な理念も安全保障上の戦略も剥き出しのハード・パワーの裏付けが必要である。イスラム国(ISIS)に対する戦争はNATOのような既存の安全保障同盟の代わりにアド・ホックな有志連合に依存している。さらに党派やイデオロギーの枠を超えてアメリカの国防を再建しなくてはならない。国防の再建には安全保障政策が再建されねばならない。

 現在、アメリカの国防政策は党派間および政党内部の分裂によって崩壊している。新アメリカ安全保障センターのミシェル・フローノイ最高運営責任者とリチャード・フォンテーヌ所長はアメリカの国防がいかに政局化しているかを述べている。それは「1970年代および80年代には党派を超えた投票は普通に見られ、それが超党派で外交政策のコンセンサスを形成するうえで一役買った。しかし昨今では党派の分断が厳格になって、合意の形成が妨げられている。政党内部の分裂も深刻である。共和党に関して言えば、財政支出削減重視派と国防力強化重視派の相克がある。民主党側に目を転じると、極左派はアメリカが世界規模で強大な経済的および軍事的なプレゼンスを維持してゆけば、格差拡大のような内政問題が置き去りにされるだけだと見なし、主流派から乖離している」ということだ。党派間もさることながら、同一党派内の相克が非常に厄介である。

 アメリカ国民の多くがイラクとアフガニスタンでの長きにわたる戦争に嫌気がさし、保守派とリベラル派の双方にまぎれる孤立主義に惹きつけられている。これぞバラク・オバマ氏が2期も続けて大統領に選出された背景である。フローノイ氏とフォンテーヌ氏が主張するように、問題意識の高い人々の間で様々な経路を通じて超党派の安全保障政策のコンセンサスを模索しなければならない。アメリカの国防再建には多くの事柄を考慮に入れる必要があり、それらには脅威の適正な評定、軍事力の適正な規模、国防費の適正な金額などが挙げられる。しかし真の問題となるのは大統領の指導力である。オバマ氏は、今年の9月末にISISの脅威を過小評価した発言で物議を醸した。アメリカの国防におけるオバマ大統領の指導力には大いなる疑問を呈さざるを得ない。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム