国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2015-01-14 06:25

米国は70年問題での「中韓結託」にくさびを入れよ

杉浦 正章  政治評論家
 新年早々従軍慰安婦問題がまた頭をもたげた。韓国大統領・朴槿恵の支持率維持策は「反日」を煽る事しかないのかと思いたくなる。さすがに筆者が命名した朴の「言いつけ外交」の評判は米欧でぱっとせず、このところ鳴りを潜めている。しかし、このままでは戦後70年を絶好の機会と捉えて、朴は中国国家主席・習近平との「結託」に動く可能性が強い。いま朴が中露の戦勝記念式典への参加の誘惑に駆られていることは火を見るより明らかだ。これにストップをかけ、とかく戦後70年のプロパガンダ合戦に向かいがちな国際社会の目を、中露が現実に行っている「国際秩序破壊」に向けさせることが不可欠となろう。それには米国による対韓圧力しかあるまい。朴は新年早々の記者会見で対外戦略を明らかにしたが、その基本は「韓米同盟をしっかり維持しながら、中国に対して戦略的協力の同伴者としての関係を深める」点にある。首相・安倍晋三との首脳会談に関しては「日本側の姿勢の変化が重要だ」と注文をつけたうえで、慰安婦問題について、早期に解決しなければ「韓日関係だけでなく、日本の歴史にも重荷になる」と主張した。明らかに朴は過去の歴史認識への拘泥姿勢を変えておらず、求心力維持に歴史認識を使う政治手法から脱していない。

 これに対して官房長官・菅義偉が「慰安婦問題を政治問題、外交問題にすべきではないというのが政府の基本的立場だ。隣国首脳が会うのに前提条件を付けるべきではなく、その姿勢は全く変わらない」と突っぱねたが、当然である。慰安婦問題は強制連行があったかどうかがすべてである。強制連行がなければ、通常世界のどの国も行ってきた戦時売春制度に他ならないからだ。その強制連行が朝日の大誤報是認で昨年は「その事実なし」でケリが付いたのだが、朴の発言からは韓国が反日宣伝の軸足を強制連行から外す姿勢が見られない。政府は、今年国交正常化から50年となる韓国とさまざまなレベルで対話を重ね、正式な首脳会談の実現を模索する方針だが、従軍慰安婦問題で日本の歩み寄りを求める朴の姿勢からみて、関係改善は容易でないことをうかがわせる。朴はおそらく安倍が、戦後70年の首相談話で歴史認識を巡ってどのような姿勢を打ち出すのか、見極めようとしているに違いない。したがって歴史認識での反日プロパガンダは変化するどころか、米国を舞台に激しさを増す事が予想される。

 そこで米国がどう動くかが焦点となるが、新年早々国務省報道官・サキが対日圧力ともとれる発言をした。どうもこの報道官は深い問題を内在させる歴史認識問題で安易で浅薄なコメントを出しすぎる傾向がある。1月5日、「これまでに村山(富市)元首相と河野(洋平)元官房長官が示した謝罪が、近隣諸国との関係を改善するための重要な区切りだったというのが我々の見解だ」と発言したのである。サキは「だから安倍もこの談話を受け継げ」と言いたいのは明白だ。翌日の記者会見で「対日圧力か」と質されてサキは「そのような意図はなかった。歴史問題への前向きなメッセージや平和への貢献を含めた安倍晋三首相の発言を歓迎している。地域の国々と強固で建設的な関係を築くことを促進することが、当事者の国々と米国の利益になると考えている」とがらりと言い訳に転じたのである。国務省ですらそうだから、議会に至っては韓国の宣伝が利き過ぎなほど利いている。韓国側の「吹き込み」が利いたのか、米下院外交委員長・エド・ロイスは最近、韓国メディアのインタビューに対し、「慰安婦は強制的に動員され、性奴隷として生きた。歴史を否定する日本は弁明の余地がない」などと語っている。

 こうした韓国の先行する対日悪宣伝は、韓国政府の基本姿勢として今年も維持されることを物語っている。したがって政府は、米国に対して本格的な「70年問題協議」を舞台裏で展開する必要がある。米国は日本が韓国との関係を改善しない限り、オバマのリバランス戦略に影響が生ずると考えており、折りに付けて両国に働きかけている。しかし朴のかたくなな姿勢が大きな障害となっていることは確かだ。したがってまず政府は、米国が朴に中露の戦勝式典に参列しないように働きかけるよう工作をする必要がある。現状ではまだ朴は態度を表明していないが、捨てておけば確実に参加へと動くだろう。これを食い止めるには米国の圧力しか利かない。中露に朴が抱き込まれれば、米国の極東戦略にも大きなマイナスとなる。さらに政府は、安倍が歴史修正主義者(リビジョニスト)であるという、誤った認識が知識人や国務省内部にすらあることを重視し、それが全く事実と異なることを繰り返し説明する必要がある。またサキ発言に見られるように、深い洞察がないまま報道官が安易な発言をすることにクレームを付けるべきである。今年は70年問題と歴史認識というセンシティブな問題を避けて通れないだけに、対米事前調整が極めて重要となる。先にも触れたが、安倍談話にあたって、オバマがすぐに歓迎の意向を表明するように根回しすることが、朴の言いつけ外交にとどめを刺すためにも不可欠である。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム