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2015-02-03 10:57

(連載2)「イスラム国」人質事件とゲームの理論

角田 勝彦  団体役員、元大使
 彼らは、労せずして獲得した湯川さん(昨年8月から)及び後藤さん(昨年10月から)という二人の人質をゲームのカードとして利用する機会をしばらく待っていたが、1月17日訪問先のエジプトで2億ドルの人道支援を表明した安倍晋三首相の演説を契機として、1月20日人質二人の映像(ここでは本物と想定。以下同じ)をネット公開して、72時間以内に2億ドルの身代金支払いを要求した。期限切れの24日には、湯川さんの遺体の写真を持たされた後藤さんがヨルダンで収監中のリシャウィ死刑囚釈放が身代金に代わる新要求である旨明らかにした。27日には後藤さんの映像が示され、リシャウィ死刑囚釈放に24時間の期限が付された。

 28日夜にはヨルダン政府はヨルダン軍パイロットとリシャウィ死刑囚の交換を要求したが、ISILは29日深夜までにリシャウィ死刑囚をトルコ国境に移送するよう要求した。ヨルダン政府はパイロットの生存確認が得られないとして移送せず、硬直状態が続いた。その後2月1日朝、後藤さん殺害の動画がネットに公開されたのである。この間世界中のマスコミの大報道によって、ISILの目的(1)は十分達成された。(3)はISILがヨルダン軍パイロットとの交換に応じれば実現の可能性は大きい(パイロットはすでに死亡しているとの観測もある)。問題は(2)である。

 ISILから見れば、このゲームで日本がヨルダンに働きかけ、ヨルダン軍パイロットとリシャウィ死刑囚の交換交渉(すなわちテロリストとの交渉)が始まったことは大きな成果だろう。日本政府がどのていどヨルダン政府に働きかけたかは不明だが、24日午後5時半ころ安倍首相はアブドラ国王と電話会談も行っている。28日ジュデ外相は米CNNテレビのインタビューで、軍パイロットの解放が「最優先事項だ」とする一方、「後藤さんも交渉に含まれる」と述べ、日本政府の協力要請に応じ後藤さんの解放をISIL側と交渉していることを認めていた。

 一部マスコミなどでは2億ドルの身代金を法外な要求としてリシャウィ死刑囚釈放要求で値が下がったと見る向きがあったが、原則軽視、かつ身勝手な考えである。ヨルダン政府は、今回の交渉開始により土台が揺るぎかねない危険を冒しているのである。テロとの戦いの一環としても、今後ヨルダン政府には特別の配慮を行うべきであろう。(おわり)
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