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2015-05-05 11:37

(連載2)被爆体験に言及しなかった安倍総理

角田 勝彦  団体役員、元大使
 耳に快く自発的に軍事面での協力強化すら申し出ている安倍総理の演説が米議会で歓迎されたのは当然である。たとえば、米上院軍事委員会のマケイン委員長(共和党)は、その後の共同通信のインタビューに応え、中東・ホルムズ海峡での機雷掃海活動への自衛隊参加に強い期待を表明した由である。自民党の高村正彦副総裁は5月3日のNHK番組で停戦前に機雷掃海をする条件について「ホルムズ海峡から原油が全く来なくなって、国内で灯油もなくなって、寒冷地で凍死者が続出するというのは、国民の権利が根底から覆される(状況)ではないか」「単に経済的理由では駄目だ。原油が3割、5割上がる程度では駄目だ。(新3要件は)かなりしっかりした規定だ」と語ったが、米国はそれで満足するだろうか。なお、安倍総理は、安全保障関連法案の成立を「この夏までに、必ず実現」すると述べたが、そのことが「国会審議の形骸化にあたる」との野党の批判を呼んだことについては、「(発言は)決意表明である」と反論している。

 ニューヨークで開催中のNPT再検討会議は、核軍縮,核不拡散及び原子力の平和的利用という同条約の3本柱それぞれを強化するため5年に一度開催される会議であるが、難航している。岸田外相も4月27日の演説で、同条約が「核兵器国」と定める米露英仏中5か国の核戦力の透明性向上や、世界の政治指導者の広島、長崎訪問を呼びかけたが、4月30日「核兵器国」5カ国は、これまでの核軍縮の成果を宣伝する共同声明を発表した。これは非核保有国の間で、核兵器禁止条約の制定など核の完全廃絶を目指す動きがあることを意識し、今後の核軍縮に関しては「漸進的かつ段階的な手法が唯一の現実的な選択肢である」と主張し、非核保有国を牽制したものである。

 「核兵器国」5カ国及びその他関係国の歩みにも違いがある。米国は予算面の制約もあり足踏みしているが、ロシアは急速に核軍拡を行っている。プーチンは3月のテレビ番組でウクライナ関係で欧米の軍事介入を念頭に「核兵器を使う用意があった」と認めた。中印も増強している。パキスタンもインドに対抗して核ミサイルの実験を行っている。イランについては4月上旬の枠組み合意を受けて6月末を期限とする最終合意への期待が高まっているが、北朝鮮はすでに10~16発保有する核弾頭の小型化に取り組んでいる。

 「核なき世界」はオバマの悲願でもあった。安倍総理は、5月1日訪問先の米ロサンゼルスで同行記者団に対し、夏に発表する予定の戦後70年談話で日本の将来像を「世界に発信する」との意向を示し、(1)先の大戦への反省、(2)戦後の平和国家としての歩み、(3)今後のアジア太平洋地域や世界への貢献、を踏まえた内容になると説明した。別途、有識者会議「21世紀構想懇談会」で英知を結集したいとも述べている。戦後70年談話が、戦後の平和国家としての歩みをも内容とする以上、被爆70年と「核なき世界」への言及は不可欠であろう。(おわり)
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