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2015-05-07 10:02

訪米成功に浮かれてはいけない

鍋嶋 敬三  評論家
 安倍晋三首相の公式訪米(4月26日-5月3日)は「不動の同盟国」の関係を打ち立て、大きな成果を収めた。首相とオバマ大統領が気軽なツイッターでやりとりを交わし、個人的な信頼関係の深さをアピールした。18年ぶりの日米防衛協力の新指針(ガイドライン)策定、環太平洋連携協定(TPP)交渉の促進機運を盛り上げるなど、首相が発揮したリーダーシップは高く評価されるべきだ。新指針の下で日米安全保障同盟は太平洋からインド洋へ、さらにグローバルな貢献の拡大(共同ビジョン声明)を視野に抑止力の強化を目指す。1996年の橋本・クリントン安保共同宣言以来の日米同盟の質的転換を遂げる基礎が作られた。

 米国の日本専門家の評価は極めて高い。AEI研究所のオースリン日本部長は「どこから見ても大成功」と称賛した(ナショナル・レビュー電子版)。同氏によれば、新ガイドラインはアジア、そして世界における安全保障分野の日米協力で、日本の役割を着実に拡大するロードマップになる。首相訪米の結果を一言で言えば、日本は今や「米国の心からの同盟国」だという。首相が議会演説で第2次世界大戦について使った「深い悔悟(deep repentance)」の表現について、オースリン氏は日本の首相として初めて使ったもので、村山「謝罪」談話でも使わなかったものだと高く評価した。戦死した米兵に対し首相が「とこしえの哀悼」を捧げたことについて、議場で聞いた議員が「紛れもない謝罪のメッセージだ」と述べたことも紹介した。

 首相訪米がアジアで大きな関心を集めたのは、「戦後70年談話」の歴史認識を占うものと見ていたからだ。首相は同行記者団との懇談で、歴史認識は歴代内閣の立場を前提として作成、内容として(1)先の大戦への反省、(2)戦後の平和国家としての歩み、(3)日本が今後アジア、太平洋や世界のために果たす貢献ーを挙げた。首相の米議会演説についてアジアはどう見たか。日本に軍事占領された華人国家シンガポールのストレーツ・タイムズ紙はワシントン特電で二日連続で詳細に伝えたが、客観的報道に徹した。クローニン氏(新米国安全保障センター)やグリーン氏(戦略国際問題研究所)らワシントンの日本専門家は日米同盟を固めたことで安倍訪米は成功との見方で一致していることを伝えた。中国は日米同盟を弱体化させようと期待してきたが、今や北京もそうできるとは思っていないだろうーとのグリーン氏の観測も紹介している。

 しかし、同紙は数日後の紙面で首相を厳しく批判する編集委員の署名入り記事を掲載した。「歴史をごまかす」首相の「修正主義の傾向」を取り上げ、謝罪もなければ侵略戦争も認めなかったとこき下ろした。建国の父である故リー・クアンユー元首相の「日本が過去を認め、謝罪しようとしないことが日本の将来の意図について疑念を生むのだ」という言葉を引用した。ワシントン特電とのバランスを取った紙面作りとも受け取れるが、アジアの安倍批判の代表的な例であろう。先の大戦の相手は米国だけではない。戦場は太平洋、中国大陸、マレー半島、インド亜大陸など広範囲に及んだ。サンフランシスコ平和条約は日本以外に中南米、中東、アフリカを含む48カ国が調印した。戦後50年の村山談話、60年の小泉談話の核心であるアジア諸国に与えた損害と苦痛に対する「痛切な反省」と「心からのお詫びの気持ち」をどのように表明するかに世界の関心が集まっている。歴史認識を「全体として引き継ぐ」などの間接話法ではなく、アジア諸国民の胸にストンと落ちる「安倍談話」が示せるかどうかが日本の評価に直結する。安倍首相は訪米の成果に浮かれていてはいけない。
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