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2015-05-12 16:01

ドイツ、ロシアにある”同族”的要素

山田 禎介  国際問題ジャーナリスト
 伊藤憲一先生の「プーチン・ロシアはどこへ行くのか」を読んで、私の経験した学生時代や、新聞社国際報道の現場での経験がよみがえる。ソ連・東欧5カ国軍のチェコ侵入(1968年)はさすがに日本でもメディアがスポットを当てたが、1956年のハンガリー事件や、同年代の東ベルリン、さらにポーランドに戻されたダンツィヒ(グダニスク)、ポーゼン(ポズナニ)などでの数多い反ソ暴動は、戦後間もなくの日本国際報道ぶりでは、目に触れる機会はほとんどなかった。むしろ日本では、社会主義、共産主義の理想像が独り歩きし、「やさしいスターリンおじさん」という小冊子を、私自身手にした記憶がある。また日本では、ドイツとロシアについて第二次世界大戦の「独ソ戦」のみ強調されるが、歴史的にはドイツ出身のロシアのエカテリーナ女帝に象徴されるように、ドイツ、ロシアには”同族”的要素が実に強い。また現代でのロシア・ドイツの水面下での連携ぶりを思い出した。

 私の記者時代の先輩で、主要国首脳会議(サミット)取材歴では最長老の玉置和宏氏の論がそれだ。日本記者クラブ誌にある玉置論は「G8首脳たちの素顔:サミット40年の取材秘話」と題するもの。その一編「ロシアの領土トラップ」では、2000年の沖縄那覇サミットで初登場のプーチンにまず触れる。プーチンを戦略的策謀家とする玉置氏によれば、9・11テロ直後、真っ先にブッシュ(米大統領)に「共にテロと闘おう」と電話、プーチンは翌年G8のフルメンバー資格と2006年サミットの開催権の報酬を得た、という。

 そもそもロシアをサミットに引き込んだのはクリントン(米大統領)と地政学的に西側に囲み込みたいコール(独首相)で、玉置氏によればコールはエリツイン(ロシア大統領)に「北方領土交渉を進めては。私が仲立ちをします」と囁いた、という。1997年の米デンバー・サミットで、クリントンはロシアのサミット参加を公表。その半年後、2000年までに領土問題を解決し平和条約を結ぶことを目指す、橋本龍太郎首相とエリツィンとの間でクラスノヤルスク合意が成立。翌年春、両者の「川奈会談」につながったが、返還願望は一瞬の幻影に終わる、という流れ。橋本首相は、領土問題を解決したい強い想いでやすやすとエリツインの「領土トラップ」に引っかかった、と玉置氏は結論付けるのだ。

 ところで、2002年のカナダ・カナナスキス・サミット終了後、ドイツのシュレーダー首相が、小泉首相専用機に同乗し日本に向かったことが「日独首脳 異例の空の旅」として話題になった。横浜でのドイツとブラジルによるサッカー・ワールドカップ決勝観戦のためだった。そのシュレーダー首相は、退任後にロシア国営天然ガス会社ガスプロムの子会社の役員に就任した。また首相在任中も毎年、中国を訪問し経済外交に務めていたのだ。この中国との縁は現在も続いているらしい。さらに前任の小柄、英語が得意なシュミット首相と対照的に「巨体かつ英語も解さなかった」、エリツインのお友だちコール首相だが、神経はこまやかだった。英語を解さないと言われるものの、ちゃっかり米国ドイツ系移民の都、ウィスコンシン州ミルウォーキーに毎夏、現れていたのだ。米欧、ドイツ、ロシアの首脳の裏表の行動は、喜んで専用機に招き入れた日本の首相とは、これまた対照的だ。
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