国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2007-02-09 16:09

忘れてはいけない「久間発言」

田久保忠衛  杏林大学客員教授
 柳沢伯夫厚生労働相が「女性は(子供を)産む機械」と発言したことをとらえ国会では延々と与野党間の攻防戦が続いている。柳沢発言に比べて相当に質の悪い久間章生防衛相の「暴言」はいつの間にやら忘れられてしまった。奇怪と言うほかない。

 昨年12月から1月末にかけて久間氏は何と4回にわたり、米国のイラク戦争開始と普天間基地に関して米国批判をした。普天間基地は橋本龍太郎政権のときに橋本氏が当時のクリントン米大統領に強引に頼み込んで代替施設への移行を認めてもらったいきさつをすっかり忘れているのだろうか。「私は米国に、『あんまり偉そうに言ってくれるな。日本のことは日本に任せてくれ』と言っている」との久間発言を耳にして怒らぬ米国人はいないだろう。

 イラク戦争は久間氏の根本的認識が間違っている。この戦争は、「戦争」なのか、どことどこが何のために戦っているのかを自らに問いつめていないから、第三者的な無責任な発言になってしまう。米国がイラクから手を引いたらどうなるか。シーア派とスンニ派は内戦に突入し、クルド族は独立に走る、との見通しはすでにベーカー元国務長官を議長とする「イラク研究グループ(ISG)」でも立てられている。内戦になればイランはシーア派の多いイラク南部に独立国をつくる方向に動く。クルドが独立すればトルコは軍事介入して弾圧に動くだろう。いまでも難民流入に頭を悩ましているヨルダンやシリアは軍を動員して流入阻止に動かざるを得なくなる。トルコやイランに住むクルド族は連動して立ち上がるかも知れない。ビンラーディン系の国際テロリスト勢力はイラクを基地として石油を手に入れるかもしれない。

 混乱が予想されると石油価格はいっきょにバレルあたり100ドル台に突入する。ペルシャ湾への航行も危険度を増す、日本が最大の被害者になるにもかかわらず、久間氏はあっけらかんとブッシュ政権を批判している。野党側が柳沢批判に没頭し、久間氏の追求を怠っている理由は簡単にわかる。自分たちもほぼ同様のことを考えているから、「怪しからん」と怒るわけにはいかないのである。新聞も久間氏同様の受け取り方をしているところが少なくない。深い思慮はなく、単純に「強い米国」が「弱いイラク」をいじめているので弱い方に味方する、との判官贔屓の気持も広く日本人一般に共有されているのではないか。

 1月中に開催が予定されていた日米間のいわゆる「2プラス2」会議の開催も見送られたままだ。米国にすれば同盟関係の最も強い協議機関の「2プラス2」の当事者である防衛相の発言だけに軽々に見逃すわけにはいかないだろう。米国に同情を禁じ得ない。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム