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2015-09-15 06:13

与党は内閣信任案で野党をはねつけよ

杉浦 正章  政治評論家
 「男を女に変える以外は、何でも出来る」と言う“格言”が国会にはあるが、鼎(かなえ)は沸き立ち、与野党は国会対策の“秘術”を尽くしての攻防の段階に入った。安全保障関連法案をめぐって野党の攻撃を政府・与党がいかにかわして、週内の成立に持ち込むかが焦点である。60年安保改訂では警官隊を500人導入して野党のピケを排除し、成立を図った。今回も7月にテロ対策訓練で55年ぶりに国会に警官隊が入った。警官隊に「土地勘」が出来たからやろうと思えば出来ないことではないが、これはデモ隊や野党へのけん制にとどめておいた方がいい。結局焦点は時間切れを狙った不信任案の連発ををどうしのぐかに絞られるだろうが、国会の歴史を見れば、これとて一蹴は不可能ではない。食うか食われるかの場面だが、長い経験に基づいてシュミレーションをすれば、最終的に食われるのは民主、共産両党などであることが歴然としてくる。

 首相・安倍晋三は9月15日の自民党役員会で「参議院での審議は大詰めを迎えている。議論が尽くされれば採決を行うのが民主主義のルールだ」と述べ、陣頭指揮に乗り出した。特別委の答弁ぶりを聞いたが落ち着いており、腹が固まった印象を強く受けた。これは衆院の法案可決でいったん落ちた内閣支持率が、朝日を除いてことごとく上向きに転じたことも背景にあるのだろう。最近のNHKの調査では「支持する」が6ポイント上がって43%。一方、「支持しない」との回答は、7ポイント下がって39%で、3か月ぶりに「支持する」が「支持しない」を上回った。読売、日経、産経などの調査も回復ぶりを示しており、朝日だけが支持が38%から36%に落ちるという異常現象を示している。大新聞の編集が調査に意図や作為を入れたとも思えないが、読者の信頼性を欠く「見事な」調査結果ではある。

 最大の特色は自民党支持率が不動であることだ。NHKで自民党が34.7%、民主党が9.8%、公明党が3.7%、維新の党が1.3%、共産党が4%である。これは野党がデモ隊と呼応して安全保障関連法案に反対すればするほど、支持率が低迷するという政治現象を巻き起こしているのである。とりわけ安保をめぐる激突の象徴となった8月23日投開票の盛岡市長選に続き、13日の山形市長選でも自民党系候補が勝利したことは大きい。これは、かしましく野党が言い立てる「国民の声」や「民意」が、国会前のデモ隊とは別の場所に存在していることを歴然と物語っている。朝日は15日の社説で「民意無視の採決はやめよ」と主張したが、勝手に「民意」を使うなと言いたい。岸信介が安保改正で「私には“声なき声”が聞こえる」と名言を吐いたとおり、安全保障問題特有の傾向を悟るべきだ。今直ちに解散・総選挙をしても、小泉郵政選挙と同様に自民党が圧勝するのではないかと思えるほどだ。しかしまだ伝家の宝刀の選択だけは後々の楽しみに除外しておいた方がいい。

 そこで政府自民党の腹は据わったが、問題は参院が毒蜘蛛(ぐも)、ハブ、サソリがうじゃうじゃいる洞窟のようであり、虎視眈々と安保に致命傷を与えようと狙っていることだ。危ういのが前から指摘している特別委員長の鴻池祥肇だ。やはり予想通り「地方公聴会」などというやらなくてもいい日程を挿入して、審議を遅延、嫌がらせをしている。衆院側は激怒している。採決に当たってはよほど気をつけないと何をするか分からない。しかし法案に致命傷を与えるようなことをすれば、逆賊明智光秀となり、政治家としての生命は終わるから、結局は採決せざるを得まい。一方民主党も、14日の特別委でかつては集団的自衛権の行使に何度も賛成していたことが暴露された代表・岡田克也が、恥ずかしげもなく「あらゆる手段を講じて法案を廃案にする」と息巻いている。こちらも何をするか分からない。一番危険なのは法案を参院副議長・輿石東の「魔手」に委ねることだ。明らかにそれを狙って民主党は参院議長・山崎正昭の不信任案を他の問責決議案と共に上程する。何を意味するかと言えば、議長不信任案の審議は副議長が行うからだ。かつて2004年に年金改正法をめぐって出された議長・倉田寛之不信任案で議長席に着いた民主党の副議長・本岡昭次は、本会議「散会」を宣言、法案を廃案に追い込もうとした。すかさず倉田が「無効」を宣言して議長代理を選出して事なきを得た。まさに民主党は江戸名うてのスリ・ちゃっきり金太のようなことをする政党である。

 岡田の「あらゆる手段」の内容について、自民党副総裁・高村正彦はNHKで「ゲバ棒はないと思うが、牛歩くらいはやるのかな」と予測しているが、牛歩は評判が悪すぎて、民主党の低い支持率がさらに低下するから、やっても長時間の法案阻止は難しかろう。衆院では規則により投票時間を制限できるが、参院でも議長職権により投票時間を短縮できる。1992年のPKO法案では社会党が牛歩戦術に出て、衆院可決に4日間を費やしたから遅延策としてはあり得る。1999年の組織犯罪対策法案では、民主党、共産党、社民党 の牛歩を議長による投票打ち切りでストップをかけた例がある。フィリバスターは参院で2004年に森ゆうこが厚生労働委員長解任決議案の趣旨説明に3時間1分かけた例が最長演説記録だ。しかし演説時間は過半数で制限が可能であり、決定打にはなりにくい。こう見てくると衆参、それぞれに内閣不信任案や問責決議案がだされ、これに付随して多様な遅延策を展開する可能性が強いだろう。PKO国会では野党の不信任案連発の動きに先立ち、自民党が内閣信任決議を提出して可決。一事不再議で野党の提出が不可能になった例があるが、これが時間短縮には一番ではなかろうか。また参院の輿石の出番を封ずるためにも、先に議長信任決議を出して対抗するのもよいかもしれない。まあ、いくら野党がジタバタしても、可決成立の道はいくらでもあるということだ。

 
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