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2015-11-05 10:29

(連載2)米中の「にらみ合い」は続く

角田 勝彦  団体役員、元大使
 中国は力の信奉者である。9月下旬の米中首脳会談で習主席は「太平洋には両国を受け入れる十分な空間がある」と述べた。中国海軍司令官が訪中した米太平洋軍司令官に「太平洋を二分割して管理しよう」と提案したこともある。9月3日の北京での大規模軍事パレードで誇示した軍事力(例えば「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル東風21D型)が基本であるが、経済力も利用している。9月下旬の訪米時には総額4兆6000億円を使ってボーイング製旅客機300機を購入し、中国のメディアは「緊張を緩和させ、信頼関係を築いた旅」と宣伝した。10月下旬の国賓としての英国訪問では、習主席はキャメロン首相と英国の原子力発電や高速鉄道に対する投資など、約400億ポンド(約7兆4000億円)の商談を企業間で進めることで合意した。ドイツのメルケル首相は10月末に訪中している。11月2日中国を公式訪問したフランスのオランド大統領は習主席との会談で、今月末にパリで始まる国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)に向け、共同声明を発表した。パリ会議では気候変動対策で高い目標値を設定し、拘束性のある合意を目指すとしている。新華社通信は「欧州とは蜜月関係にある」と強調している。

 その中国で経済に問題が生じている。中国共産党は10月19日、第18期中央委員会第5回全体会議で2016~20年の経済運営目標「第13次五カ年計画」について「中高速の成長」を目指す方針を決定した。新5カ年計画の数値目標は未公表だが、国内総生産(GDP)の成長率目標を、年6%台後半に設定したようである。さらにこのままでは、2020年以降、労働力難、結婚難、介護難の3つの大問題に直面するとして、すべての夫婦に2人目の子どもを産むことを認め、人口抑制のため1979年から続く「一人っ子政策」を全面廃止すると決めた。

 この最中の「航行の自由」作戦である。米軍の対中示威行動は2013年11月、中国が東シナ海上空に防空識別圏を設定したと宣言した直後、グアムから2機のB52戦略爆撃機を急派して以来である。これまで米軍艦船はオバマの指示により、12カイリ内に入ることを自制してきた。それが変わったのである。10月27日 イージス駆逐艦ラッセンは、南シナ海の北から南に向かって約72カイリ(約133キロ)を5時間かけて航行し、中国が滑走路を建設しているスビ礁のほか、台湾が実効支配する太平島やベトナムが領有権を主張する岩礁の12カイリ内を通った。 中国は「強烈な不満と断固たる反対」を表明したが、進入した米駆逐艦に対し、軍艦2隻による追跡と警告にとどめた。この後29日、米海軍制服組トップのリチャードソン作戦部長と中国海軍の呉勝利司令官はテレビ会談を行ったが物別れに終わった。そして11月2日、米国防総省当局者は、中国が「領海」と主張する南シナ海の人工島周辺12カイリ(約22キロ)内への米海軍艦船派遣について、今後も「四半期に2度かそれ以上」の頻度で継続すると述べた。同当局者はロイターに対し、四半期に2度程度の航行は「作戦を常態化しつつも、摩擦を強めない」範囲だと指摘し、国際法に沿った航行の権利を中国などに認識させるのが狙いだとした。

 各国の反応は米国支持が多い。韓国はコメントを控えている。我が国は、中国の動きをけん制するため、中国と領有権問題を抱えているフィリピンやベトナムに巡視船の供与や人材育成の協力も行ってきており、今回も支持を明らかにした。安倍総理は、訪問中のカザフスタンで「南シナ海における大規模な埋め立て、拠点構築、現状を変更し緊張を高める一方的な行動は、国際社会共通の懸念」と指摘した。その上で、「開かれた自由で平和な海を守るため、米国はじめ国際社会と連携していく」と強調した。時期を同じくして海上自衛隊と米軍は、南シナ海で共同訓練を実施した。訓練は10月28日から始まり、海上自衛隊の護衛艦「ふゆづき」と、米海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」などの部隊が参加している。緊密な日米同盟をアピールし、中国をけん制する結果を持とう。南シナ海でなんらかの了解が成立すれば、東シナ海にも良い影響が及ぼう。尖閣諸島近くでの中国の行動規制について、この機会に何らかの進展があることを期待する。(おわり)
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